目録
「再開」
「天貴」
朱雀が彰子と話をしていた天一の名前を呼ぶ。
それはいつも通りの光景に見えた。けれども、その関係は僅かに変わっている。
「どうしたの、朱雀」
優しく微笑む天一はいつもと変わらないように見えた。
けれども、どこかが違う。何も知らない昌浩と彰子が物の怪に尋ねたことからも、それは確実だった。
「いや、なんでもないさ」
「おかしな朱雀」
天一は何も言わない。ただ、いつも通りに過ごしていた。
「時々思う」
勾陣がポツリと零した。
「アレは誰かが見せた幻だったのではないかと」
まるでそうであって欲しいというように。
「でも、アレは現実だ」
青龍が珍しく言葉を返した。
自分たちが手も足も出なかった。
力の差か。本能が戦闘を拒否したような感覚だった。
神である自分たちは生きることに忠実である。命の危機を感じた勾陣が理性の箍を外して生き延びようとしたように、高於の神の前で、圧倒的な力を感じように、本能は時として理性とは違う道を選ばせる。そうしなければ死んでいたというように。
「アレっきり何もないのも変ですよね」
「天后、朱雀と天一はどうだ?」
「相変わらず距離があるわね」
「昌浩と彰子姫も気づくくらいだ。不振なほどに天一は変わらん。我はそれがいささか気になる」
玄武の隣では太陰が膝を抱えたまま暗い顔をしていた。
この間から時間があればこうして何か考え込んでいる太陰に、玄武は縋るように白虎を見やる。
前回蓮眺と先代天一が姿を現してから数ヶ月がたっていた。
ただの襲撃だ。しかし、十二神将たちの間には目に見えぬ大きな亀裂が入っていた。
「のう」
僅かな沈黙の後、静寂を破った声の主に神将たちの視線が集まった。
「いい加減、わしの部屋で常駐するのはちとやめんか?」
紅蓮、六合、天一、朱雀、天空。それ以外の十二神将が主である晴明の部屋に集まっているのだ。
見鬼の才がなければ問題はないが、あいにく晴明には全員見えている。
狭苦しいことこの上なかった。
「いつあいつらが来るか分からんだろう」
「交代でいればいいじゃろうが」
「皆が皆、彼女たちに聞きたいことがあるんですよ」
だからここから動きません、と太裳が静かに言葉を口にする。
勾陣は腕を組んだまま、月を見上げた。
中秋の名月もすぎた。季節はもう冬に差し掛かる。
ふと、神気が都を覆う。
晴明が外に視線を向け、天后が晴明にも見えるように蔀を開けた。
「勾陣」
「分かった。白虎」
晴明の言葉に勾陣は返事とともに風将の名を呼ぶ。
白虎も承知したように頷いたが、太陰の声が割って入った。
「待って白虎、あたしが行く」
泣きそうな顔で太陰が白虎の腕を掴んだ。
「行かせて」
――――――
ソレハナンノキザシカ カノジョサエシラナイバショデウゴキダス
二章に入りました。
十ニ巻(一章)―十四巻
h21/11/11
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