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「不振」
ふう、と希代の大陰陽師は息をつく。
いくら慣れていると言っても、一度離れた魂を身体に戻すのは容易ではない。
ましてや今回は幼い子供。それだけで息を詰める。
「さて、お前たち」
自身の身体に戻った晴明は静かな声で呼びかけた。
それにあわせて人気のない部屋に姿を現したのは青龍。
厳しい視線を主に向けているのは、やはり離魂の術を使ったからだろう。あれは使うだけで術者の命を脅かす。
「お呼びですか?」
そっと部屋に入ってきたのは天一で、その後ろからは恋人の朱雀がいつものように付き従っていた。
二人は彰子に付いていたのだが、彼女が寝静まったのを見計らって戻ってきたのだろう。
「さきほど、一人の幼子の魂を身体に戻してきた」
天一が眉をひそめる。
姿を現していないが、この場にいるはずの天后もおそらく同じような顔をしているだろう。
「政敵の差し金かしら」
異界から顕現してきた太陰が、晴明に問いかけた。
「その幼子は平民だ」
「政略的には何も意味がない」
随従していた玄武と共に屋敷に戻ってきた勾陣が付け足す。
「どういう意味だ?」
朱雀が訝しげに尋ねる。
何が起こった、と青龍も視線で問うて来た。
敵に遭遇したのは勾陣で、それを回りに聞かせる。
晴明はただ黙って目を閉じていた。
「新たな敵、か」
話を聞いた朱雀が呟いた。
「それは新しい敵とみなしてもいいんでしょうか?」
「どういうことだ?」
めずらしく顕現してきた太裳が口を挟み、青龍が眉間に皺を寄せる。
「何か違和感がするんです。晴明様はいかがお考えですか?」
目を閉じたままの主へと伺う。
「……ここ数日、六壬式盤で占ってきた結果が皆同じだった」
何を占っても、同じ結果が出るという。
「晴明様、それは」
「『けして還られぬ。いにしえからの約定』というものだ」
今回のことを示しているのか、それともまた違うことを示すのか。
「晴明様」
「帝に関わることではあるまい」
それは星が教えてくれている。都に関することでもない。
自分の周りにいるものに関わっていることでもない。
陰陽師の直感が大丈夫だと告げている。
回りの人間は大丈夫だと。
動き出すまで何も出来ないだろう。
けれど何もせずただ待つことはしない。
「勾陣、朱雀、玄武、太裳、太陰」
呼ばれた者も、呼ばれなかった者も背筋を伸ばす。
「夜の都の見回りを。件の者の正体が分からないが、罪ない平民の魂を集める者の警戒とともに、他の異常がないか調べよ」
『御意』
――――――
ソノカンガタダシイトシルノハモウスコシアト
ほんわか休話のはずが、シリアスに。十二神将はみんな大好きです。
六巻―
八巻
h20/9/10
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