目録
「接触」
『きょうのよる』
それを聞いた昌浩はすぐさまその屋敷を出た
今日は様子見だったから何も用意していない
今ならまだ間に合う
そう思ったから、急いで戻った
彼女を連れて行こうとしているものがいるのは分かった
話では真夜中に来るらしいが、どうなるか分からないため、物の怪に見張りを頼み込む
物の怪は嫌がったが、有無を言わさずおいて来た
「お帰り、昌浩。どうかしたの?」
駆け込んできた昌浩を彰子が首を傾げて出迎える
「ただいま彰子。ごめんちょっと急いでる。じい様は?」
「お部屋にいらっしゃると思うけれど」
「ありがとう」
あわただしく会話をおえて、昌浩は晴明とところまで急ぐ
「そうか、分かった。勾陣」
主に呼ばれて勾陣が顕現する
「話は聞いていたな。昌浩と共に行って欲しい。六合も、頼むぞ」
「分かった」
勾陣が返事をし、六合が頷いたのを気配で感じる
「それじゃあ行ってきます」
「うむ」
一度自分の部屋にもどり、必要な道具を用意して、また急いで家をでる
「昌浩待って」
「彰子」
飛び出そうとした瞬間、彰子が昌浩を呼び止めた
「これを」
そう言って差し出した包からは柑橘系の香り
「乾杏だ」
「あと桃も入っているわ。おなかが空くでしょうから持って行って」
彰子はふわりと笑う
「気をつけて」
「行ってくる」
それに笑顔で答えて、昌浩は駆け出した
駆ける
『返さなきゃならないの』
それでいいの、と聞いた昌浩に少女ははっきりとそう言った
躊躇いもなくただ決まっている未来を受け入れようとしている
『助けてくれ』
彼女の父親は自分よりも下位の者に頭を下げた
運命に抗おうと必死だった
何とかしたい
自分が死ぬことを受け入れることも、それを止める術をもたないのも、過去の過ちを思い出させる
昌浩は駆ける
何とかしたい
そのために夕闇に染まった都を駆ける
「――!!」
どこからか悲鳴に近い声がした
咄嗟に立ち止まった昌浩は後ろを振り返る
荒い息を整えながら神将二人に問いかけた
「今のって」
「確かに悲鳴のようだったな」
勾陣が答える
「……おにいちゃんたちだれ?」
なんの気配もなく聞こえた声に驚き前に向き直ると、そこには
「おん…な…のこ?」
幼い少女がそこにいた
昌浩は目を見開く
「魂魄状態!?」
「梓姫とは違うな」
六合が呟く
「じゃあさっきの悲鳴みたいなのは」
「そう、この子の母親だ」
突如少女の傍らに現れた人物が口角をあげた
「誰だ!!」
勾陣が鋭い声を出して顕現する
「勾陣、六合」
六合も昌浩の肩を掴んで下がらせた
暗くてよく分からないが、たぶん女
勾陣が詰問するように声を発する
「そこの少女、お前が魂魄を抜いたのか」
「聞いてどうする」
「何故だ!!」
「だから聞いてどうする、と言った」
勾陣は忌々しげに唇をかみ締めると、筆架叉に手をかける
「やめておけ、それを手にしたところでこの少女を巻き込むだけだ」
「ちっ」
青龍のような舌打ちになぜか相手は笑った
その笑顔がなぜか昌浩の胸をつく
「……そろそろ行かないと。次が待っているのでね」
「それって、梓姫」
昌浩の呟きに女が目を向ける
「ああ、そんな名前だったな」
その言葉に昌浩の頭に血が上った
「梓姫は、彼女だけじゃない、なんで!! 誰かが誰かの命を奪う権利なんてないのに!!」
頭に血が上り、自分でも分からない言葉を並べ立てる
「昌浩」
六合は昌浩を宥め、女は目を細めた
「どっちにしろ、時間がないのでね」
そういうと女は腕を伸ばす
「何!?」
その腕に炎がまとわりついた
どこかで見たような、そう火将が放つ炎に似ている
否、朱雀よりも紅蓮に近い炎
「いち、おいで」
女が誰かを呼んだ
――――――
グレンノホノオハトウダノホノオ
えっと、何が書きたかったっけ?
分からなくなってきた
少女が六合と勾陣がみえたのは魂魄だったからです
三巻――五巻
h20/4/7
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