目録
二巻「陰陽寮にて」
「昌浩、手が止まってる」
「え?ああ、ごめん」
陰陽寮の自分の席で考え事をしていた昌浩は、物の怪の一言で我に返った
目の前には硯がおいてあり、昌浩が墨をするのを待っている
「朝のことか?」
しゃこしゃこと墨を磨りながら昌浩は頷く
「うん」
「……勾、お前今なんて言った?」
暗い沈黙を破ったのは物の怪の言葉だった
声は硬いまま
「死ぬ者たちは、死ぬことを知っていて家族に伝えていた。そしてそれを受け入れていた」
昌浩は言う
「なんで?」
死んでしまったら元も子もないではないか
「それを調べて欲しいのだよ」
晴明は静かな瞳を昌浩にむける
「もう一つ共通点がある」
勾陣が言葉を続ける
「死んでいく者たちは年齢はさまざまだが、昔に長くは持たないと言われていた者たちばかりだそうだ」
昌浩は手を握り締めた
そして晴明を見て、しっかりと頷いた
「分かりました、調べてみます」
「調べてみるって、あてはあるのか?」
今朝のことを思い出し問いかける
「とりあえず、その人の家に行ってみるよ。じい様に連絡しておいてもらったし」
「それしかないよなぁ」
物の怪がため息をつく
それを見て昌浩は笑う
「仕方がないよ。手がかりがないのはいつも同じだし」
しばらくして昌浩は外へと目を向けた
物の怪からは彼の顔は見えない
「昌浩?」
何故か泣いているように見えた
「ねぇ、もっくん」
唐突に呼ばれた
「なんだ?」
その声に覇気はない
「自分が死ぬのが分かるのって、どういう気持ちなんだろう」
物の怪ははっとする
「それを受け入れるって、その人たちはなんで受け入れられるんだろう」
「昌浩」
「俺なら出来ない」
残される人を思ったら
「……もう、絶対に出来ない」
「昌浩殿!! 墨はすれただろうか」
隣の部屋から敏次が呼んでいる
昌浩は飛び上がった
「い、今行きます!!」
慌てて立ち上がり駆け出す
やれやれ、と物の怪は呆れたように昌浩を見送る
そしてふと空を見上げた
もうすぐ夏が終わる
まだまだ暑い日が続くが、だんだんと日の入りが早くなってきている
だが物の怪は眉をよせた
わずかな本当にわずかな違和感を感じたのだ
空を見上げたまま物の怪は違和感の正体を探ろうとするのだが、それが何なのか、皆目見当がつかない
まぁ、本当に何かが起こるなら、晴明が気づいているはずだと自分を納得させ、昌浩の後を追うことにした
――――――
モウイチドハケシテナイ?
ちょうど一ヶ月ぶりの更新ですね
ああ、全然更新できなくてごめんなさい
一巻――三巻
h20/3/9……9日ってあと一ヶ月で誕生日だ!!大人の仲間入りですかね。良いのか嫌なのか?
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