目録
「過去華」少年陰陽師長編小説
失せし絆を取り戻せ
どれだけの時が過ぎても……
一巻「朝」
「…さ…ろ」
――誰? 何で泣いてるの
「起き…さひろ」
――泣かないで
「…っの起きろ!晴明の孫!!」
「誰が孫だ!! って、あれ?」
「ようやく起きたか」
がばりと起き上がった昌浩はきょろりとあたりを見回す
その隣では物の怪があきれた顔をしていた
「おいおいどうしたんだ、昌浩?」
「……夢?」
そう物の怪に聞いてみると彼は眉根を寄せた
「俺に聞くなよ」
それももっともである
「で、どんな夢を見たんだ?」
陰陽師の夢には意味がある。昌浩もそれを実証しているから聞いた
「うん。あのね、確か……その……」
歯切れが悪く視線を泳がせた昌浩に、物の怪は嫌な予感を覚える
「まさかお前」
「忘れちゃった」
てへ、っと頭に手をやり舌を出す昌浩に物の怪はあきれた
「力のある陰陽師が見る夢は意味があるから、って何度言わせれば分かるんだ」
「面目ない」
遇の根もでなかった
「おはよう昌浩。朝餉の支度が出来たんだけど、晴明様が呼んでいるみたいなの」
ひょこりと顔を出した彰子に話は中断される
「俺を? 分かった。じい様のところへ行ってから行くよ。先にいっておいて」
「分かったわ」
彰子を見送り昌浩は晴明の部屋に向かう
「何かあったのかな?」
そういう昌浩に物の怪は意地悪く答える
「お前の夢に関係あるのかもしれんぞ」
「まさかぁ」
顔を引きつらせて答えた
それでも何か胸騒ぎがして昌浩は晴明の部屋へ急ぐ
夢の内容は忘れてしまった。思い出そうとすると何故か胸が締め付けられる
「人の魂が抜ける?」
晴明の話はそんな突拍子もないものだった
「どういうことだ? 詳しく話せ」
物の怪が顔を険しくする
それもそのはず、魂が抜けるなどという高度な技は大陰陽師安倍の晴明しか行えない
徒人が簡単に行えるものではない
否、恋しい人を想うあまりに魂が抜けることもあるのだが、そのために晴明が呼ばれることはあれど、昌浩にお鉢が回ってくることではない
そう、圭子姫のように第三者が抜かない限り……
「魂が抜かれ、死ぬ者が出た」
と晴明は話す
「死んでから、抜けるんじゃなくてか」
物の怪の言葉に十二神将勾陣が顕現しそうだ、とうなずく
「そして魂が抜かれるものたちには共通点がある」
その後に続いた言葉に昌浩たちは耳を疑った
――――――
モロイカベガコワレハジメルオトガスル
序巻――ニ巻
h20/2/10
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