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血の涙

「きゃあぁぁぁぁ」

「天后!!」

天后の叫び声と勾陣の声があたりに響く

「ちょっとまってよ、やだったら」

涙声で太陰が引き込まれる

「太陰、天后!!」

百虎がかまいたちと風で助け出そうとするが間に合いそうもない

「ちっ」

「騰蛇!?」

本性から物の怪に変化し塞がりかけている穴に飛び込む

飛び込んだと同時に穴は塞がってしまう

あたりに静寂が満ちた



「……こう、天后」

天后は聞き覚えのある声に意識を取り戻した

「太……陰?」

「良かった」

ふえ、と目に涙を浮かべ太陰は天后の服を握り締める

「そういえば、私どうして」

今までのことを思い出した天后はあたりを見渡し、息を呑んだ

灼熱の炎の瘴気が充満する中に自分たちがいる

そのことに恐怖を覚えた

それだけではない、褐色の肌に紅い髪。天后が最も嫌う同胞がそこにいた

「なんで!! あなたが」

思わず叫ぶ。それもそうだろう、彼がここに引き込まれるはずはない。十二神将最強の名は伊達ではないのは天后もよく知っている

彼は黙ったままその金色の瞳をこちらに向ける

太陰が体を強張らせるのが分かった

「仕方がないだろう。あの場で飛び込めた度胸を褒めてほしいものだがな」

嘆息しながら視線をそらす

「……ここはどこなの?」

自分たちは主に言われて妖を倒しにきた

だが、隙をつかれて自分と太陰が妖の触手に捕われてしまった、そこまでの記憶しかない

「妖のつくった異空間に引き込まれたみたいなの」

泣きそうな太陰が必死に涙をこらえている

それもそうだろう。気を失っていた天后がいるとはいえ、実質騰蛇と二人きりの状態になっていたのだ

天后は太陰の頭をなでてやり落ち着かせる

「で、どうするの?」

本当は騰蛇とは話はおろか、視界に入れることすら嫌なのだが、ここにいるのは自分と騰蛇と太陰だ

実力で言えば太陰のほうが上なのだが、彼女が一番彼に怯えるためあてにはできない

自分たちと離れたところにいる騰蛇は、先ほどと同じようにちらりとこっちを見た

「さあな。どうするか」

その言葉に天后は眉をよせる

「策があったから飛び込んだんじゃないの?」

「まさか。お前らが引き込まれた穴がもう少し大きければ、勾か青龍が飛び込んでたと思うが」

なぜか自嘲ぎみに嗤っている騰蛇に天后はあきれる

「とにかく、はやくここから脱出しないと」

そう思案したとき、奥の暗闇から何か轟くような音がした

服を掴んでいた太陰がかたかたと震える

「太陰?」

訝しげに眉をよせる天后に騰蛇は一言言った

「きたぞ」

天后には何がきたのか分からない

それにかかわらず、騰蛇は太陰に続ける

「分かってると思うが、力は使うなよ」

こくこくと太陰は頷く

顔色は先ほどよりも悪くなっている

気力で持たせているといった感じだ

しばらくすると天后の肌を嫌な気配が這い登る

ぞくりと体が震えた

太陰の手は握り締めすぎて色がない

天后は太陰を腕に引き寄せ、騰蛇に尋ねた

「何が来るの?」

「妖の本体だ」

「天…后が、気絶している間にも…何回かきたのよ」

震えたまま太陰は懸命に続ける

「晴明が、いったのは妖退治。でも、あんなのはもう、……妖なんかじゃない、ただの化け物よ!!」








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二へ続く(予定)なので、拍手は更新はしません
書きたかった話の一つです
計画しているところまでいけるか分かりませんが、楽しんでくれればいいなぁ







h20/1/31
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