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おとなとこども



「明るいな」

勾陣が呟いた。

「うん。満月だもの」

太陰が空を見上げたまま言葉を落とした。

「何を考えている」
「別に何も」

自然な風が、太陰の長い髪を揺らす。
勾陣の目の前まで流れてくるその栗色の髪。
それを手にとってみた。

「勾陣?」

どうかした? と首を傾げるその表情は、幼い子どものそれ。

「いや、綺麗だな、と」

食べなくても神将に支障はない。
それと同時に肌や髪の手入れをしなくても、問題はない。
以前それを聞いた彰子が、しきりに羨ましがっていたことを思い出す。
この長さの髪を見ればそう思うだろう。

「私はあんまり好きじゃないなあ」

太陰がぼやくように答えた。

「そうか?」
「うん。天一は綺麗だと思うんだけど」
「ああ、あれはな」

手入れをしなくても支障はない。
けれども、手入れをすればその分綺麗にはなる。

「朱雀がいるから余計だろうがな」
「そうかも。ああ、でも一番すきなのは勾陣の髪かな」

意外な回答に勾陣は目を瞬かせた。

「勾陣の髪って、まっすぐで、大人っぽくて、綺麗だと思う」

まっすぐなのはお前だと、思わず声に出しそうになった。

「手入れなどじていないぞ」
「それでも。似合ってるからかな」

羨ましい、と太陰は笑う。

「私は太陰の髪が好きだな」

先ほどから触れていた髪を梳くように流す。

「なんで?」
「長いから」

即答され、太陰は思わず声を上げた。

「変な勾陣」




笑った太陰に勾陣はほっと息をつく。
太陰は見た目通り子どもだ。
だからこそ、いつも笑っていて欲しいと思う。
自分の姿にコンプレックスを持っていることは知っている。
けれど、彼女が感情を表に出さないと、誰もが戸惑うことも知っている。
太陰は誰よりも大人で、誰よりも子どもだと、勾陣はそう思っていた。

「太陰」
「何、勾陣」

風が吹いた。
太陰が操る風。
それが太陰を纏う。

「明日は晴れるか?」

その言葉に太陰は空を見上げた。

「そうね、きっと快晴だわ!!」

いつものような笑顔で、そう笑った。






――――――
太陰は誰よりも子どもで、誰よりも大人。
それは私の中で絶対だと思う

h21/11/17

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