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ずぅぅん、と変な効果音がつきそうなくらい、暗い雰囲気が太陰の周りに覆っている。
普段なら太裳なり、玄武なり、天一なり、太陰を心配する誰かがそばにいるのに、今回に限って誰もいない。
だからか、常々苦手だと言っている天空のそばに太陰はいた。
「何を沈んでおる」
暗い沈黙に耐えられなくなったのか、珍しく天空から太陰に声がかかった。
こういうときに声なんて、かけないでよ、と太陰は思ったけれど、だからといって天空の言葉を無視することはできない。
「さっき、玄武と喧嘩しちゃって、それで・・・」
また風を引き起こしちゃったの、と小さくなっていく言葉に天空は目を細めた。
同じだけ生きているのに、太陰の言動は幼い。天空とは大違いだ。
けれど、それは天空にとってうらやましくもある。
「喧嘩っていうか、私が一方的に怒っちゃっただけなんだけど」
それでも最初より、太陰は明るくなった。大人になった。ゆっくり成長している同胞を見るたび、天空の胸に暖かいものがひろがる。
「それでね、風起こしちゃったんだけど、それがね」
しどろもどろに太陰は話を続けるが、だんだんと顔が青ざめてきた。
「騰蛇を吹き飛ばしちゃったの!!」
どうしよう、と天空の体にしがみついた太陰が、叫び声をあげた。
「騰蛇を巻き込んだの見て、すぐにやめたんだけど、なんか引っかかっちゃったみたいで、どうしよう、怒られるぅぅ」
泣きそうな顔、いや、もう泣いている太陰が真っ青な顔で怯えている。
ふつうに考えれば騰蛇が吹き飛ばされることはない。
白虎に次ぐ体つきをしているのだ。
おそらくここ数年使っているもののけ姿だったのだろう。
「あれを吹き飛ばすとは」
思わず笑いそうになるが、太陰にはそれどころではない。
怒られる、と思っているだろうが、いつものことと、気にしないだろう。
「怯えることはないだろう。騰蛇はそれくらいで怒ったりはせん」
怯えていると知っているのだ、それ以上怯えさせるほど子供じみてはいない。
「だが、謝ることは大切じゃ。後で誰かについていってもらって、謝りに行きなさい」
白虎と言わないのは太陰が怒られるから。勾陣や朱雀と言わないのは騰蛇がのちのちからかわれるから。
ぱにっくを起こしている割に騰蛇のことを考える余裕はあることを微笑ましく思いながら、天空は太陰の頭をなでた。


晴明様と幼い昌浩様のようですね、と太裳に言われるのは、
すぐ。



――世界はゆるやかにあざやかに色を変えていくから


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別題、おじいちゃんと孫娘(笑
微妙に4の騰蛇と太裳にリンク

h22/6/12
カラウタ様「金色の、終焉の、」より

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