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優しい人



「大丈夫か?」

その言葉に顔を上げた。
目の前には白虎が手を差し出している。

「大丈夫よ」

いつものように微笑むと、彼は苦笑しながら私の手の中のものを取り上げた。

「そのようだな。だが、お前だけが持っていると、俺が朱雀に怒られてしまう」

さりげなく、私に負担をかけないようなその仕草に、思わず声を上げて笑ってしまった。

「ありがとう」
「気にするな」

私が微笑むと、彼も同じように微笑んでくる。
同じ十二神将の中でも、私をホッとさせる笑顔だった。
私は皆よりも生きている時間が短い。
それはどうしても、非を覚えてしまっていた。
私がいるから同胞は彼女を忘れることなど出来ないのだ、と自分を責めたときもあった。
その中で、唯一私を叱ってくれたのが白虎だった。

「どうかしたのか?」
「いいえ。白虎は本当に父親みたいね、ってごめんなさい、私ったら」

そう言ってから、失言だったかと、思わず手を口に当ててしまう。

「父親、とは。これでも太陰と同じ年だぞ」
「太陰、と?」
「そう、太陰と」

思わぬ切り替えしに、問い返してしまった。
その切り替えしにも白虎は冷静に返す。
それに笑ってしまったのは、私のせいではないでしょう。

「それは、ごめんなさい」

白虎ほど生きている太陰にか、太陰ほどしか生きていない白虎か。
どちらかか分からないけれど、謝ってしまう。
謝っているのだけれど、どうしても笑っているのを押さえることは出来そうになくて。

「ああ、もうすぐつくぞ」

白虎の声に、私は無理矢理笑いを納めた。
こんな姿を朱雀には見せたくないもの。

「笑ってしまってごめんなさいね、白虎」
「構わんさ。自分を演じる必要はないんだから」

ただ、朱雀には言うなよ、と続けた白虎に、私はもう一度笑う。
『お前はお前だ。だれもあいつと混同してはいない。無理に笑わなくていい』
今の太陰と同じように、膝を詰めて説教されたのは、今では考えられない。
けれども、ふとしたときにこうして穏やかな時間をくれる。
この時間を朱雀は知らない。
心配掛けたくない、そして、白虎に文句を言ってしまうと、私が申し訳なくなるから。
だから、この時間は二人の秘密。






あや、おとうさんと娘になった。
でも、これ下手したら浮気になるんじゃね?
h21/11/19

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