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儚くも脆く
その日、天空は一人異界にいた。
一度も晴れたことのない曇天が、空を覆う。
閉じたままの目で、その空を見上げていた天空は、ゆっくりと口を開いた。
「どうか、したのか」
「……天空」
ゆらりと現れたのは、十二神将の中でも幼い姿をしている同胞だった。
「……何でもない」
少し逡巡した上で、玄武は首を振った。
そして天空の後ろに座り込む。
天空は岩の上に座って、玄武はその岩にもたれて座った。
そして空を見上げる。
「翁……」
風は流れていない。
動くものは何もない世界で、生きているものは十二神将しかいない。
口を開いたはいいが、それ以上の言葉が出てこない。
「人は、脆いものよ」
変わりに天空が口を開いた。
びくりと玄武が反応したのが分かった。
「儚いものよ」
それは我らがずっと理解していたもの。
けれど、本当にそうだったのか。
「人と関わり、皆差異はあれど、変わった」
天空は玄武の頭に手を置いた。
「死を理解してもなお、誰もが人界に降り、人と関わっておる」
人と関わり傷つくのを恐れ、人界に篭ることよりも、僅かな時間を惜しむように、人と関わる。
十二神将はそんな風に変わった。
人の願いで産まれたからこそ、十二神将は人を愛するのだ。
「後悔しておるか?」
「……我は、後悔など、していない」
やさしく黒髪を撫でてやると、玄武は腕で顔をぬぐった。
そして立ち上がる。
「行ってくる」
「ああ。行ってくるがいい」
うっすらと目を開けて、天空は幼い少年を送り出した。
風が吹かない異界に風が吹く。
雨が降らない異界に雨が降る。
それは、その世界の住人が心を揺らした証拠。
「あの子も後悔はしていまいて」
天空が呟いた。
――――――
シリアスが書きたかった。
多分ずっと後に汐が死んじゃった話かな。
h21/11/15
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