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本音
十二神将は人には見えない
けれど、見える人にとっては、そこにいる人間のように変わりはない
十二神将玄武は朝からそこにいた
手持ち無沙汰で欄干に座り、ただじっと庭を眺めていた
「どうした?」
声をかけられて上を見ると、同胞である白虎がふわりと浮かびこっちを見ている
仕事帰りだろうか、体のあちこちに泥がついている
それを認めた玄武はつい、と指を動かす
池の水が小さな玉となり、白虎の汚れた部分に触れる
泥を含んだ水が茶色く濁った
それを、見た白虎は地面に降り立つ
視線の高さが同じになった
「悪いな」
「構わない」
もう一度指を動かすと、汚れた水は地面に吸い込まれて消えた
「……」
しばらく玄武は沈黙する
白虎も共に沈黙する
玄武は口を開閉し、視線をさ迷わす
白虎は分かっているように、ただ待っていた
「…屋敷が」
ようやく玄武が言葉をこぼす
「屋敷が静かなのだ」
「……」
白虎はその言葉の裏に隠れている意味を察する
そのまま続きを黙ったまま促す
しかし、玄武は言葉を続けない
白虎はため息と共に相槌を打つ
「そうか」
先日主の命である妖を退治た
妖がいくつも折り重なり強大な妖を作り上げる
この手の妖は近年増加しており、主を始め、十二神将もその対応に追われている
その中の一匹がどうやってか異界を作り上げ、そこに同胞である天后と太陰が引き込まれたことは記憶に新しい
機転を利かせた騰蛇が共に異界へ行き、妖を滅ぼしたが、代償が大きすぎた
助け出されるまでに三日、助け出された後、天后は三日昏睡し、騰蛇は一週間も眠り続けた
目覚めてからも天后、そして一足先に助け出された太陰までもが塞いでいる
太陰が塞いでいると、屋敷は静まり返ったように静かだ
「露樹が」
ふと、物思いにふけっていた白虎は玄武の言葉に思考を引き戻された
「露樹が、屋敷が静かだと。見えないのに、感じないのに静かだと、言ったのだ」
「そうか」
それは白虎も知っている
たまたま玄武と通りかかった厨で露樹がつぶやいていたから
『最近、屋敷が静かねぇ』
彼女には見えないはずなのに、静かだと感じさせるほど、屋敷は静まり返っているということ
誰に言うでもなく呟かれた言葉は、玄武の心にしこりとして残った
一緒にいたことを彼も覚えているだろうに、玄武はとつとつと呟く
「太陰も変なのだ。一人で何かを考え込んでいて…」
それがだんだんと熱を帯びていくのを白虎は意外な思いで静観する
「声をかけても聞いていなくて、『どうしたのだ』と聞いても『なんでもない』の一点張りで、かなり挙動不審なのに、あれで隠しているつもりなのが腹立たしい!!」
両手を握り締めて机に叩きつけるように振り下ろす
同時に肩で息をするくらいに興奮している自分に驚いた
「分かってはいるのだ、今回はそれだけ大きなことだったと。天后も太陰も沈むのもおかしくないのだと」
頭では理解している、だが、感情がついていかない
いつも一緒の彼女が、塞ぎこんでいるのを見ると、何も出来なかった自分が悔しくなる
「何か、何か足りない気がして……、落ち着かない」
自分を振り回しても悪びれることもない、あの笑顔が消えて、玄武は不安になった
自分は何も出来ないのだと
「我は非力だ」
「玄武…」
白虎は否定するように声をかけたが、玄武は首を振る
悔しそうに歯噛みした
「非力だ。守ることしかできない。そしてその力も弱い。たまに、本当にたまになのだが、自分はいていいのかと思う」
「何を。……誰だろうと、欠けることはつらい」
諭すように、静かに
「それは皆知っている。力があるからだとか、弱いからだとか、それは関係ない。玄武」
傍から見ていれば親と子のように
「お前はお前のままでいいんだ」
手を玄武の頭へ置いて撫でた
「太陰も今回のことで色々思っているのは確かだ。それが原因で彼女が変わったとしても、太陰は太陰であることに変わりはない」
俯く玄武の頭をくしゃり、と撫で回す
我侭を言っている自覚がある
変わりたくないと、変わっていくことに怯え、拒否を示した
本当に見た目どおりの子供のような我侭
だからこそ、白虎は親が子をそうするように、頭を撫でた
だからこそ、玄武は呟いた
「我は子供ではない!!」
それに白虎は笑う
――――――
何が書きたかったんだろう
玄武が変わるのが怖い、というのが根本になりました(書きあがった後に)
最初と繋がってねぇ
落ち込んだ太陰に対する玄武と白虎を書きたかったのは山々なんだけどさぁ、
これ、白虎じゃなくてもよくねぇ!?
いつか再チャレンジしたい組み合わせだなぁ
ちなみに玄武は太陰のことが気になっている設定
h20/5/23
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