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妖が断末魔の叫びを残して消えてゆく

勾陣は現れた人影に声をかけた

「どうして来た」

低い声が響く

「どうしてと言われましても、あなた一人じゃ大変でしょうから……」

「戦えないお前がいたとしても意味がないだろう」

その台詞に太裳は悲しそうな顔をした

勾陣はしまったと思ったが後悔は後から悔やむから後悔というのだ。つまりもう遅い

「そうですね。私が悪かったです」

そう言って勾陣を見る

彼の紫暗の瞳が勾陣の心を見透かすようで息ができなくなる

違う、そんな顔をさせたいわけじゃないんだ

「違う、私は……。もういい!!」

その瞳に耐え切れず勾陣はその場から逃げ出した



「おやおや、こんなところに居たんですか」

柔らかな声が聞こえた

「騰蛇の陣に居るなんて、あなたらしいというかなんていうか」

勾陣の居た場所は昔、騰蛇が長い長い時間を一人ですごした場所

その時間が長すぎたために騰蛇の苛烈な神気が移ってしまったところ

「うるさい」

思わず一刀両断に切り捨てると、背後からため息がこぼれた

心の中がちくりとする。そんなため息をさせたいわけじゃない

「……今回は私が悪かったです。すみませんでした」

謝って欲しいわけじゃない。喧嘩のあとの謝罪ならいつも向こうからしてくる

そんなものが欲しいわけじゃない。だから絶対に振り向いてなんかやるものか

沈黙が場を制する

たった数秒が永遠にも等しく感じる

口を開いたのは太裳だった

「……好きですよ、勾陣。私の中の一番はあなたです」

その言葉に驚いて振り返ると、あの瞳が私を見ていた

「生憎私は騰蛇のようにあなたの暴走を止められるような力はありません、でも」

太裳は勾陣に近寄ると、しゃがんで目線を合わせてきた

「守ることはできます」

勾陣の瞳が見開かれる

太裳はにっこりと笑う

「これでも、守りの力は翁についで強いんです。大抵の瘴気からなら守れますし、たとえあなたが暴走してしまってもあなたの力を外に出さず、被害を小さくすることはできるんです」

騰蛇は無理ですけれどねと付け足して、太裳は勾陣の両頬に手を添えた

「だから、もっと頼ってください。あなたと私の関係は晴明様とのような主従関係じゃないんです。守ってもらう必要はありません」

そのままそっと抱き寄せると、勾陣は太裳の肩口に顔を埋める

小さく肩が震えた。笑ったのだろうか?否、泣いているのかもしれない

太裳はそのまま黙って腕に力をこめる

しばらくそうしていると、太裳の背中にも腕が回り同じように抱きしめてきた

「悪か……」

「勾陣」

勾陣の言葉を封じて太裳は名を呼ぶ

「……何だ?」

せっかく謝罪しようとしたのを彼に阻まれて少し不機嫌に答えたが、次の言葉に苦笑する

「……場所、移動しませんか?」

さすがの太裳でも、騰蛇の神気が取り巻くこの場所は辛いらしい

互いに回していた腕を解いて太裳は立ち上がり、勾陣へ手を差し出した

差し出された手を掴み勾陣も立ち上がる

勾陣の手を手を引いて歩く太裳の耳がわずかに赤い

そんな彼にぽつりとつぶやく

「ごめん。ありがとう、太裳」

消え入るような声に太裳は笑った











――――――

これ、誰ですか?
勾陣じゃねぇよ!!っていう突っ込みは私が一番したいです
こんな勾陣見たことねぇ

後半が書きたくて、後半から書きました
だからもし辻褄あってなくても責めないでね(おい)
まぁ喧嘩させることは決まってたんで話的には大丈夫なんですけど、問題は勾陣の性格
こんな彼女も有りってことで
ちなみに勾陣がいた場所は、誰もが来なさそうなところだから
太裳も苦手な場所なんですけど、勾陣のためなら





h19/12/20
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