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信じて信じないで
「あなた少しは見習ったらどう!?」
いきなり現れたかと思うと、天后は言い放った。
岩に腰掛け愛刀を手入れしていた朱雀は困惑した。
「いきなりなんだ」
「見習いなさいって言ってるの」
「だから誰を」
「同胞を、よ」
何が何だかさっぱり分からないが、どうやら彼女はご立腹のようだ。
十二神将に女性は四人いるが、どの神将も頑固で強い。
力量ではなく心が、だ。
恋人である天一も例外ではない。
「だから、どういった経緯で、俺がどの同胞を、どう見習えというのか、筋道たてて説明しろ!!」
「あなたか天一ひとり追い掛け回して迷惑とか考えなさいというの。恋愛に関しては六合を、強さでは闘将を、精神面では勾陣を!!」
一気にまくし立てる天后。同胞とはいえ、騰蛇の名前を出すのは嫌らしい。
唖然とする朱雀を尻目に天后はなおも続ける。
「大体ね、あなたが天一の周りにいるから迷惑なの。いくら天一と恋人だからといって、常日頃から一緒にいないでよ。私たちだってたまにはゆっくりさせてくれたっていいじゃない。彰子姫だって」
次から次へと言葉が出てくる中、ふと彼女が口ごもる。
「……彰子姫だって、傍にいれないことをずっと我慢してらっしゃるのに」
「……それは配慮が足りなかった。」
最初のほうは意味が分からず、次は天一と話したいのにと一方的な八つ当たりを受け、最後の言葉に謝罪する。
「確かに、それは俺の責任だ。そうだな、ここのところずっと二人は不安定だからな。天貴が慰めようとして傍にいるからつい。悪かった」
頭を下げる朱雀に天一は複雑そうな顔をする。
別に謝って欲しかったわけじゃない。
朱雀に気づかれないように天后はため息をついた。
「分かったらしばらく昌浩の護衛にでも徹すればいいのよ」
「何で俺が」
「彰子姫の気持ちも分かるかもだし」
不満を言いそうだった朱雀が口ごもる。
的を射てるからだ。
「そんなに天貴と一緒にいたいなら、呼んでくる」
「えっ?」
「天貴と話をしたいからそういうんだろ? なら話が出来るように彰子姫の護衛をかわってくる」
くるりと朱雀は天后に背を向けた。
そのまま人界に降りようとする彼に天一は慌てて引き止める。
「ちょ、ちょっと待って!!」
「ん?」
「あなた、本当に分かってないわね!!」
「何がだ?」
朱雀は十二神将の中で一番純粋かもしれない、と天后は思う。
話をしたいならかわってくる。それは確かにそうだ。
けれど問題はそこではない。どうして彼はそれをわからないのか。
「別に天一だけじゃないの。私たちは同胞でしょう? それをあなたはあなたと天一の二人だけで世界を構成しているようで、私はそれが嫌なの」
そこに、私が、私たちが入っていないようで。
彼の世界はもっと広い。ちゃんと同胞も、主も、その血縁者だって彼の世界には存在している。
けれど本当のところはどうなのか、それが分からなくて恐いのだ。
「他の人だって、朱雀、あなたと話をしたいって思っているかもしれないわ」
そういって、天后は俯く。
朱雀は目を瞬かせて、そうか、と呟いた。
その声に顔を上げた天后が見たものは、爽やかな朱雀の笑顔。
朱雀。夏を連想させる四神の一人。
「そうか、天后お前俺と話をしたかったのか」
「はい?」
そうかそうかと頷いて、朱雀は先ほどまで腰掛けていた岩に再び腰を下ろした。
横を叩いて手招く。ここに座れという意味だ。
今の会話でどうしてそこにいくのか分からない。
けれど、彼に言ってもまた面倒になりそうで、天后はあきらめた。
彼の隣に腰掛けて、この珍しいひと時を楽しんでしまおうと思ったのだ。
本当は彼はこの場にはいなかったのかもしれない。
京を守護する四神の一角として存在していたのかもしれない。
ともにいられることを感謝するべきなのだろう。
だから、気づかないで。信じないで。先ほどの言葉が本心だとは……。
――――――
どの辺に恋愛要素があったのか、なんて質問は受け付けません。
色んな場所で常に要素はあるのです。
妄想万歳
h20/3/04
題名はお借りしています
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