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黒太裳です。

愛している



「天貴、決して無茶はするな。お前が呼べば、俺はいつでも駆けつける!!」

行って来ます、と微笑んだ天一の背に、朱雀は声を掛ける。
その姿は追いすがっているようで、多くのものがそっと目を逸らした。

「うっとうしいですね」

その朱雀に向かって呟いた青年が一人。
同胞たちがぎょ、っと声の持ち主を省みた。

「何か言ったか?」

くるりといい笑顔で朱雀が振り向く。
笑っているのに、その雰囲気は殺伐としている。
同胞たちはこっそり後退る。
太裳の十二神将で一、二位を争う慈悲の笑顔が今はただただ恐ろしい。

「鬱陶しいと言ったのです」

聞こえませんでしたか? と太裳はにっこりと微笑んだまま手を口元にやった。

「女性を外に出てまで束縛し、それを当然と思っている男ほど見っとも無いことはありませんね」
「お前には関係ないだろう」

あくまで笑顔で二人は対話を続ける。
同胞たちは既に退避していて、その場には太裳と朱雀の二人きり。
止めるものは誰もいない。

「関係ない? 天一は私にとっても大切な同胞ですよ。それなのに、彼女が許容しているとはいえ、毎回毎回。少しは自重してくれませんか?」
「天貴が思っていないからいいだろうが」
「具の骨頂ですね。愚かな。貴方のような男に捕まった天一が哀れで仕方がありませんよ」
「俺のことだけならいざ知らず、天貴のことまで愚弄するとは、俺を怒らせたいようだな」

朱雀の周りに神気が立ち上る。どう考えても朱雀のほうが戦う力は上。
けれど、太裳も十二神将二番目に守護する力が強い。
どちらに分があるのか。
おそらく太裳に違いない。
屋敷には結界が貼ってあるとはいえ、天一が気づかぬはずはない。
今気づかなくても、屋敷に帰ってきたとき、残滓に気づくだろう。
すると天一が問い詰めるのは朱雀で、いくら太裳が悪くても話を聞いた天一が諭すのは朱雀なのだ。
太裳はそれを計算に入れて行っている。

「お前に天貴を心配する気持ちが分かるものか!! 護る力しか持たない彼女を心配する俺の気持ちが!!」
「分かるわけないじゃないですか」

気持ちを吐き出す朱雀に太裳はあっさりと答えた。

「分かるはずないでしょう。私は貴方のように戦う力しか持たないんですから。戦う力を持っている彼女を見送るしか出来ない、無事を祈るしか出来ない。男としてこれ以上の屈辱はありませんよ」

その思いもがけぬ本音に朱雀の言葉が止まった。
待つことしか出来ないという本音。
しかし、それ以上に。

「……それは、お前に恋人がいるような口ぶりだな」
「さぁ。どうでしょう」

煙に巻くような口調で太裳は口の端を挙げた。
恋人がいないなら朱雀を。
「貴方は戦って護る力があるだけ、幸せなんですよ」

いるのならば己を。

「そう、思うでしょう?」



嘲笑うかのように。





――――――
最初は互いが互いの恋人を惚気る話だった、は、ず。
あれ? どこで間違った?
太裳って勝手に動くよ。
因みに天一以外の女性陣は全てが戦う力持ってますから、予想ができないっていう。
多分恋人がいたらこれが本音だったと思う。
ただ、出てくるのが遅かったせいで、恋人要員が思い浮かばない。
誰でもおいしくいただけますがね。
意外と楽しかった。
h21/11/22

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