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ひとりぼっちにならぬよう
異界に戻っていた六合は、庭にいた同胞に目をまたたかせた。
こちらにいるのはめずらしい。
「めずらしいですね。私が人界であなたが異界にいるなんて」
太裳も同じことを思っていたようだ。くすりと笑う。
ふわり、と鼻腔に覚えのある香りがくすぐる。
「梅、か?」
よく見れば、あちらこちらに梅の花びらが散っている。
確かこの梅はここ数日咲きはじめたところだったと記憶しているのだが。
「これですか?」
振り返った太裳の手にも紅梅が数枝あった。
濃厚な香りがその場を満たしている。
「いい匂いだな」
「でしょう。先ほどまで枝になっていたんですから」
「何があった?」
不振に辺りを見渡しているが、別段おかしいところは無い。
「先ほど太陰が」
それだけで六合には何がおきたのか理解した。
まったく、とため息をつく。
あの少女はいつまでたっても落ち着きが無い。
だから先ほど白虎が人界に降りて、逆に玄武が戻ってきたのか。
「彰子姫が先ほど部屋に持っていったんですが、結構量が多くて」
「俺に渡してどうする」
はい、と渡された一枝を反射で受け取ってしまう。
太裳は柔らかく笑んだ。
六合と梅をみて言葉を紡ぐ。
「一つの枝にいくつも花が咲いて。まるで私達のようですね」
神将という一つの名前で呼ばれて、けれど一人一人が精一杯咲こうとしている。
ふふふ、と太裳が声をあげた。
みると先ほどの梅をみて笑い声を上げている。
「いえ、この梅なんですが。一つだけ離れていて、青龍みたいだなあって思いまして」
この小さいのは太陰ですかね。ああ、こっちにも離れたのが。これは騰蛇でしょうか。
本当に梅を自分たちに当てはめているようだ。
「……」
「あれ、今笑いました? 結構本気なんですけどね」
目は口ほどにものをいう男。これだけでも会話は成り立つ。
「梅は一輪でも梅。十二神将は離れても十二神将」
だから、と持っていた残りを六合に差し出す。
「同胞のいない彼女に」
「……行ってくる」
「そうそう」
踵を返した六合に太裳が声をかけた。
律儀に彼は足をとめる。
振り返った六合は太裳をみやる。
「躊躇する必要なんてないですから」
その言葉に不振そうな顔をする。
「だから、いつでも来て良いんですよ、と。そう彼女に伝えてあげてください」
「……分かった」
沈黙の後に、六合は答えた。
――――――
h20/2/25
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