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さいしょ で さいご
「青龍、どうしたの!?」
安倍家の庭を一人で眺めていたとき、漂ってきた血臭に天一は眉を寄せた。
誰だろう、と思い気配を辿ると、安倍家の家の隅にある鬱蒼とした森の蔭から青い霊布が見え、思わず声を上げてしまった。
彼はとても自尊心が高い。
だからこそ、声をかけたのは間違いだったと思ったときにはもう遅かった。
戦えぬ身だからこそ、誰よりも怪我に敏感な己の反射が口惜しい。
「なんでもない、お前には関係ないだろうが」
眉間の皺をいつもより深くして、青龍は天一を拒絶する。
「晴明さまに治して頂いたら」
「いらん!!」
本当は自分が治してやりたいのだが、どの同胞もあまり自分に力を使わせようとしない。
天一自身の生命力を使うと知っているからだ。
それを知っている人間たちもよっぽどでないと天一の力を使おうとしない。
優しい回りの人たちに迷惑をかけたくないのも本当だから、天一は主である晴明に治してもらえば、と思ったのだ。
「けれど青龍、その傷では」
「晴明の力をむやみに使わせるわけにはいかないだろうが」
苦々しげに言葉を口にした青龍に天一は悲しそうな顔をする。
青龍は誰よりも同胞を大事にしている。
そして主である晴明も。
どちらの力も借りないと、そう言っている。
それは彼の自尊心だが、それを悲しく思った。
「壊していくの?」
唐突に言葉を口にした。
青龍は言葉の意味を図りかねて眉を寄せる。
「貴方は誰よりも自分に厳しいのね」
でも、と天一は青龍の目を見据える。
「貴方は全てを壊してでも己に課したことを遣り通すつもりなのでしょう?」
人でも妖でも神でも、そして。
「貴方が守ると決めたもののために」
同胞でさえもその手にかけることを厭わない。
福助を司る神将は、自らを犠牲にして、同胞に福を与えようとしているようにしか見えなかった。
騰蛇を手にかけて、一番傷つくのは青龍自身だろうに。
「お前には関係ないだろう」
言われた言葉に天一は怒りを覚える。
その表情に青龍はしまった、と内心舌打ちを打った。
「馬鹿にしないで、私はそこまで弱くありません。守られるほど弱くわないわ」
細い眉を上げて、美しい顔を青龍に向けて、怒りを口にする。
「どれほど長い間一緒にいると思っているの? 確かに私は他の皆と比べて一緒にいる時間は短いわ。けれど、ずっと一緒にいたでしょう」
口を挟む隙間もないほどの声音に、青龍は黙る。
彼女自身から、自分は所詮二代目だと言わせてしまった。
そのことに僅かに後悔しながら、青龍は眉間の皺を僅かに緩める。
「私は、貴方とはあまり話した記憶はないわ。けれど、昔から皆から離れることもなく、戦闘では前線にでて傷ついてくれて、それでも嫌そう顔一つせず一緒にいてくれるってことくら分かっているわ」
天一は言葉を続けながら、青龍の霊布を剥ぎ取った。
思わぬ行動に、青龍は慌てて異界に戻ろうとするが、天一はそれを一喝する。
「青龍、その怪我で次の戦闘が可能とでも思っているの?」
苦虫を噛み潰したような顔で青龍は天一の行動を咎めることをやめた。
まあ、後で勾陣くらいに嫌味を言われるだろうが、それは甘んじて受けるか、と柄にもなく思ったりして。
天一の手が青龍の怪我をしている部分に触れる。
柔らかな光が包んで、痛みが和らいでいくのが分かった。
ほぅ、と息をついて、青龍は自分が無理をしていたことに気づく。
「これくらいの力で私が疲れることはないのよ」
天一は朗らかに笑った。
「……だから」
「えっ?」
思わず言葉が零れでて、慌てて口を手で押さえるが、天一は首をかしげて続きを促してきた。
言いたくない言葉だが、天一ににっこりと微笑まれて何でしょう、と聞かれれば言わざるを得ない。
女性陣に甘いと同胞に思っていた青龍だが、実際自分も甘いのだということは気づいていない。
「お前の手は、綺麗だから」
その言葉に天一は目を瞬かせる。
「血で染めたくはないんだ」
言うだけ言って異界に立ち戻ってしまった青龍に、天一は笑った。
「分かっていないひと。私は構わないのに」
同胞が守ってくれるために染めた血なら、自分もきっと染まっているのだから。
――――――
h20/5/12
さいしょでさいご、というのは、青龍が言った言葉。二度とないでしょうね。
青龍にとって女性は守るもので、帰る場所で、なにより血なんて似合わない綺麗な存在なんだと思います(一部、つか勾陣除く)。
つか、ある意味晴明の影響でそうなってそう。
題名はお借りしたものです。
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