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くるう
その日は本当に気まぐれだった。
「いいところにいたな」
そしてその気まぐれを、心底後悔する。
「朱雀」
姿を見ないと思ったら、ここで何をしている、と声に出さない状態で睨みつけた。
「青龍か。最近色づき始めたからな、もって帰ってやろうと思って。お前も持って帰るか?」
「くだらん」
朱雀が手にしているのは一枝のもみじ。
誰に持って帰るのかは聞くだけ無駄だ。
天一以外に誰がいるというのだろう。
「連れてこれば良いだろう」
そのほうがよっぽどましだ。
晴明の家の中か、異界か。
どちらにしろ自分の目の届く範囲で二人の世界を築き上げられるのは目に見えている。
「彰子姫だって見にいけないのに、優しい天貴が置いていくことなどできるはずがないだろう」
何を言っているんだ、というように朱雀は胸を張った。
「天貴は美しいだけではなくて、優しいんだぞ」
「煩い。知っている」
「知っているだと!! お前が天貴の何を知っていると言うんだ!! まさか、お前天貴のこと」
何故か変な誤解が生まれそうになり、青龍は紅蓮に合ったときのように険しい眉を寄せた。
いつもは言葉少なでも、理解してくれる同胞だが、こと恋人になると意思の疎通が不可能になる。
「激しく誤解を生むようだから断っておく。どうでもいい」
これ以上変な疑いを掛けられてはごめんだと、青龍はきっぱりと告げた。
「そうか。そうだよな。お前には天后がいるし」
「何故そこで天后の名前が出てくる」
あっさりと天一のことを理解した朱雀は、青龍が思いも寄らなかったことを口にした。
「お前。そうか。そうだったな。悪い。今のは失言だった。許せ」
再びあっさりと侘びをいれた朱雀に、青龍は不思議に思いながらもこれ以上は関わりたくないと背を向ける。
「帰るのか?」
ああ、と仕草だけで肯定した青龍はそのまま姿を消した。
姿を消した青龍に、朱雀は口の端を挙げる。
「天后も大変だ」
堅物はいまだ自分の気持ちに気づいていないらしい。
「騰蛇が先か。青龍が先か。はたまた玄武が先か」
少なくとも女性陣から告白されることほど自尊心が傷つけられることはないだろう。
「うかうかしていると取られるぞ」
それは同胞にか、人間にか、他の神か。
けれど、
「死神に取られる前に、気づいてくれるといいな」
なぁ、天一。
――――――
朱雀がはいると恋の話になるのはどうしてか。
h21/11/17
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