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目覚めてから五日
同胞はいまだ目覚めない
「翁、太裳」
「天后。どうしました?」
静養中であるはずにもかかわらず、天后はこの場へやってきた
騰蛇が眠り続けているこの場所へ
騰蛇は天空の結界の中で眠っている
結界からは神気が溢れることはないが、あえて離れた場所に結界を貼っている
「容態は?」
強張った声で尋ねる
「心配いりませんよ。疲労が濃いだけで、命に別状はありません」
「回復が遅いだけじゃろうて」
太裳だけでなく、天空も声をそろえる
それでも天后の顔は変わらない
「……そうですか」
変わらないままその場を後にする
「天后!!」
歩いていると天一の声がした
そういえば、彼女がいないときに来たのだ
心配をかけてしまっただろう
「どこへ行って…。いえ、それよりもまだ本調子ではないのに、動き回るなど」
「ごめんなさい」
美しい顔を歪ませて、非難されると謝ることしかできない
「天后」
「…青龍」
口数の少ない同胞もそこにいた
最近、彼も親友も過保護のような気がする
「大丈夫よ」
それも仕方がないことなので、早く安心してくれるように微笑んだ
「騰蛇のところへ行ったのか」
「ええ」
「体調が万全ではないのにか?」
「…それは、」
「青龍、今はそんな話をしている場合じゃありません。天后、早く戻りましょう」
天一が非難する
青龍は天一を一瞥すると、姿を消した
ほう、と息をつく
助かった。正直あのまま青龍と話を続けていても、答えられなかっただろうから
青龍がいいたいことは分かる
どうしてひとりで行ったのか
「そんなの、私が知りたいわ」
気がついたらあの場所へ行っていた
こわかった
何がこわかったのか分からないくらいに
起きないと聞いて、
姿を見て、
あの場所から離れて、
こわいと感じた
彼は怖い
けれど、失うことも怖い
自分で自分が分からない
「天貴、天后!!」
朱雀の声に思考から現実へ引き戻された
「騰蛇が目を覚ましたぞ」
「本当ですか!?」
天一が朱雀に駆け寄る
「騰蛇が…」
「天后?」
聞いた言葉がようやく思考に追いついた
その瞬間、天后はその場を駆け出す
「天后!!」
後ろから二人の声がかかるが、それに構わずに駆けた
会ってどうする、など考えない
ただ、会わなければ、と思った
「翁、太裳!!」
「天后、どうしたのですか」
息が上がるのを堪え、視線をさ迷わせる
それだけで理解した太裳はあちらです、と指し示した
前回来たときにはその場一帯が結界で覆われていたのだが、今は小さく人一人分の大きさになっている
結界は輝き中を見えにくくしているが、近くへよると褐色の肌が見えた
続いて紅い髪、そして、
金色の瞳
瞳があうと、彼はふい、と向こうをむいた
「…と…うだ…」
思わず口に出た言葉
その言葉に彼はちらり、とこちらをみた
天后はそのままへたり、と座り込む
それを見た騰蛇は慌てたように身体を起こす
「お、おい、大丈夫か?」
低い声が耳朶に響いた
優しい声
――大丈夫だ
夢で聞いた声と重なる
「とうだ」
頬に何か熱いものが零れ落ちた
「ありがとう」
かすかに呟いた声が聞こえたのか、彼は意外そうに瞳を瞬かせて笑った
知っていた、彼が本当は優しいと
けれど、許すことは出来なかった
いつか同じことを繰り返されるのが怖かった
彼が一番自分を責めていることを知っていて
それでもなお、彼を責めた
変わったことを知っていても、それを目の当たりにしたくなかった
だって自分の過ちを見せ付けられるから
――絶対に助かる
でも、彼にとってそんなことは関係ないらしい
彼にとって自分も笑顔を向けてくれる存在なのだと、
ありがとう、助けに来てくれて
ありがとう、無事でいてくれて
ありがとう、許してくれて
ごめんなさい、ありがとう
彼を許したわけではないけれど、いつか翁が言っていた意味が分かったような気がした
彼は怖い、けれど同胞なのだ
かけがいのない同胞
いままでも、そしてこれからも
だから
こんな感情はしらない。いらない。
完――――――
一応の完結です
恋愛に発展するか否かのところですね
最後の文章は、お題サイト様からお借りしました
展開は同じだったので、ラストをちょこっと変えただけですが、
これからもちょこちょこお借りする予定です
やっぱりこういう御題のほうが、考えやすいなぁ
カラウタ様へはこちらからどうぞ
抽象的な言葉ばかりで分かりにくかったらすみません
意外と楽しかった
今作品と関係がある作品は58、11、の予定
h20/4/24
ラストのあおりをお借りしています
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