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「頼んだからね」
そう言われてしまえば断るわけにはいかなかった
鏡に背中をあわせて
「帰れ」
「ついてそうそうそれか。嫌ならその時に言えばいいだろう、なんで今更それを言う」
道の真ん中で言い合う蒼と紅の男が二人
「嫌だと言ったところであいつが聞くと思うのか!!」
「……それはそうだが。なぁ」
「……」
相変わらず背を向けて答えようともしない青龍に、しかし昔のように消えない彼を見るだけで口元が笑みに変わる
「何が可笑しい!!」
くつくつと笑う紅蓮を見て青龍が声を荒げる
「お前と今ここにいるのが面白くてな」
そう言って再び笑う紅蓮に青流は苦虫を噛み潰したような顔をして低く唸った
「……俺はお前が嫌いだ」
その言葉に、笑うため腹にあてていた手で髪を掻き揚げ不敵に笑う
「奇遇だな俺もお前が嫌いだ。少なくともあいつが言わなきゃお前と仕事なんかごめんだね」
「だったら帰れ!」
「言っただろ青龍。『あいつが言わなきゃ』って。お前も俺もあいつに『嫌だと』それが言える立場か?」
青龍の眉間の皺が深くなる
「大体……!!」
その感覚に体が反射的に動いた
「来たぞ。これが今回の仕事だ」
「ちっ」
楽しげに言う紅蓮に、とっさに彼と背中をあわせた青龍が舌打ちをする
「人を喰らう百鬼夜行の群れか」
それも雑鬼たちのような可愛らしいものではない
人の血肉の味を覚え、異形と成り果ててしまった化物だ
広い道の両側から獲物を見つけた化物が挟み撃ちを仕掛けている
そしてその数は数えるのも面倒なほど
だからこそ二人は背中を合わせているのだが、お互い協力する気はさらさらない
「「失せろ!!」」
声が重なり、蒼と紅の力がその場を制す
ぎゃああぁぁぁぁ!!
叫び声と共に化物たちが消滅するがそれは全体の三分の一ほど。力が届かない場所にいた残りは逃げもせずに迫ってくる
「ちっ、まだいるのか」
「さすが百鬼夜行と呼ばれる事はあるな。どうした青龍、疲れたのか?」
「うるさい!! 貴様は黙ってろ!!」
青龍が呟いた言葉に紅蓮が返すと青龍は唸るように振り返り怒鳴った
その青龍の後ろから化物どもが襲い掛かる
青龍は大鎌を振りかざすが一匹がそれをかいくぐり青龍の目前に迫った
「くそっ!!」
咄嗟に手をかざして庇おうとしたその時、ぶわりと炎が青龍を取り巻いた
ぎゃあぁ
襲い掛かろうとした化物は灰も残さず消える
「おいおいしっかりしてくれよ」
炎蛇で青龍を庇った紅蓮はあきれたような声を向けた
青龍は眉間の皺をさらに深くする
「誰も庇えとは言っていない。要らんことをするな」
言われることは目に見えていたので、はいはいと紅蓮は受け流す
「わぉ」
くるりと敵に向き直った紅蓮の目前にも化物が迫っていた
ぎゃあぁ
炎蛇を出すより早く霧散した化物に、紅蓮は振り返る
「貴様の方こそ余所見をしてる余裕なんかないんじゃないのか?」
そう見下したような青龍の目が紅蓮をみていた
「はっ、そうかもな」
その台詞とともに紅蓮は嗤う
「「うざい!!」」
再び叫んで力を解放し、残りの化け物を一掃する
今度はすべての化け物が声も残さず消え去った
「おぉ。あれだけうじゃうじゃいた奴らが消えると爽快だな。って、おい青龍どこへ行く」
額に手をかざしてあたりをみていた紅蓮が去っていこうとする青龍を見かけて声をかけた
「帰るに決まっているだろう!! 貴様とこれ以上付き合う義理はない!!」
そういって隠形した青龍をみて紅蓮は嗤った
「それは、こっちの台詞だな」
「どうだった青龍? 本気を出せただろう」
紅蓮よりも一足先に帰ってきた青龍に主は聞いた
「……」
無言が肯定だと知っている主にはそれで十分だった
「青龍との仕事はどうだった?」
笑って聞いてくる主に紅蓮は苦虫を噛み潰したような顔をする
「……最後の最後に押し付けやがった」
あのあと雑鬼たちが集まってきて大変だったのだ
もうあの化物は出ないのか?あれはなんだったのだ?出ないならもう遊んでも大丈夫なんだな? などなど。
「それを俺が知るか、ってんだ」
ぶつぶつと文句を連ねる紅蓮をみて主は目を和ませる
「本気でいけただろう?」
その言葉にはっと主を見るとその目は笑っていなかった
真剣な瞳で紅蓮を見ている
その瞳に敵うわけがなくて紅蓮はぽつりと本音を呟いた
「勾と組むと、背中を預けることは出来るんだ。けど、あいつは女で、昔の借りもある。無意識の中で本気が出せてないんだと思う」
主はただ黙って聞いている
「あいつと、青龍と組んでみて分かった。俺は、俺もあいつもお互いが嫌いだから、怪我をしようがどうでもいいと思ってる。だからこそ、本気を出せるんだ」
六合でもこうはいかない。六合は闘将の四番目。自分の本気を抑えられるかどうかは分からない
「青龍は嫌いだ。でもお前が、あいつらがそれを望むのなら、仕方がない」
だれも居なくなった部屋で主は一人思いに耽る
水の力と炎の力
けして相容れることはない
けれど、どこか似ている
そして似ているようでまったく違う
まるで鏡のよう
力があって、それを認めて、それでも嫌いあっているから全力でぶつかることが出来る
それを知っているからこそ二人はこれからも決して相容れない
力をあわせることはあっても馴れ合うことは決してないのだろう
それでいいんでしょう?
彼らに願った人たちよ
『あいつらがそう望んだから仕方がない』と彼は言った
それは自分も同じなのだ
彼らが願ったことを自分もまた願っているのだから
終
――――――
意味が分からない終わり方ですね。
一応私の中では筋が通っているんですけど……。
紅蓮と青龍ってある意味同属嫌悪だと思うので、絶対に仲良くはならないでしょう。
まぁ、同じ主に仕えてるあたり共同戦線くらいはして欲しいですが。
あと理性があるので、いくら勾陣に背中を預けられたとしても、無意識に本気は出ないんじゃないかと。
だから青龍とでなら本気を出せる。青龍も同じかなと。
主ですが、実は決まってません。
晴明でないことは確かです。
私としては昌浩でも、何代かあとの主(いればですが)でもいいんです。
紅蓮と青龍が仲良くまではいかなくても、憎みあうことはして欲しくないと主は思っているのです。
そしてそれは彼らを従えたことのある主すべてに共通する願い。
って感じなんですが、分かりにくいですよね。
もっと精進します。
h19/12/14
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