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「……ふぅ」
庭の池を眺めていた天一は知らず知らずのうちにため息をついていた。
朱雀の言いたいことはわかる。
信用はされている。けれど、信頼はされていない。それがつらいのだ。
恋人であるが、同じ十二神将なのだ。
「天一」
声がかかって振り向くと、そこには彰子。
彰子から成り行きを聞いたのだろう、天后もいた。
「彰子姫、先ほどはすみません。お見苦しいところを……」
「ううん、別にいいの。……大丈夫?」
首を振った彰子は心配そうに天一の顔を覗き込んでくる。
天一は心配かけまいと、淡く微笑んだ。
「ええ、大丈「大丈夫そうではないから姫が心配しているの。無理に笑わなくていいのよ」
天后が諭すように天一の肩に手をそえる。
天一の顔から笑顔が消えた。
「心配されているのは分かるわ。けれど、何もしなくていいと、それを言われるのが怖い」
ぽつりと本音を漏らした天一に彰子が手を握ってくれた。
「昌浩も同じことを言うわ。危ないから何もする必要はないって。でも何かしないと気がすまないのよね」
それがたとえ危ないことでも、自分ができることならば。
「そうね、私もすべてではないけれど、残される気持ちは分かるつもりよ」
親友も、あの人もいつも私をおいていく。
「それは私に対する嫌味か?」
「あら、自覚しているのね」
凛とした声がその場に割って入り、天后の言葉に苦笑する。
「だが、私の出る幕も少ないぞ。昔は女だから、とよく後方に回された」
晴明が主になったばかりのころの話だ。
「今は……約一人うるさいのがいるな」
否、二人だったか。
ちらりと天后を見て笑う。
「男は勝手なのよ」
風が吹いて太陰が顕現する。
「異界(むこう)でずっと見てたんだけど、男どもの話が馬鹿らしくなってきたわ」
「何を話していた?」
「昌浩とかも加わって、『守りたいから』とか『傷つけたくないから』とか」
「偽善ね。それは主語に『自分が』とつく発言だわ。自分が傷ついた私たちを見たくないから、箱に閉じ込めて……。それが幸せとは限らないのに」
天一が目を伏せた。
天后が同意する。
「偽善より、自己満足ね。それで本当に満足なのかしら」
「でも、私たちも同じなのよ。守られるだけじゃ嫌、自分の所為で傷つかれるのは嫌。わがままかしら」
「そんなことはない。彰子姫だけじゃなく誰でも思うことだ。結局はどこかで折り合いをつけなければいけないのさ」
「それは勾陣の都合のいい結果ね」
天后が睨むように告げると、勾陣は降参というように手を上げた。
「前回で久々に置いていかれる気持ちを思い出した。気をつける」
「男は理想主義、女は現実主義ね。どれだけ頑張ろうと、すべて上手くいくわけがないっていい加減に分かればいいのに。……何?」
太陰の言葉に、神将三人が目を見開く。
「いえ、太陰がそんな言葉を言うとは……」
「意外だな」
「太陰も成長したのね」
三者三様のひどい言葉である。
「ひどい!!」
太陰は憤慨した様子だ。
ひとしきり笑った後、天一が腰を上げた。
「……朱雀に謝ってきます」
それを勾陣が遮った。
「お前が折れる必要はない。向こうから謝らせろ」
「そうよ。反省させればいいわ」
「甘やかすから図に乗るのよ」
「私は天一の味方だからね」
口々にそういわれ、天一は天女のごとき笑顔で微笑んだ。
終わり?
――――――
漫画原案没ねた後半。
結局しばらく男どもは女性を敵に回して、困惑するってはなし。
いつも男VS女を書こうとして失敗する。
h20/9/5
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