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理不尽



「おい、騰蛇」
「どうした」
「これは何だ?」
「素麺だけど」
「そんなことは見て分かる。問題は、どうして素麺なんだ、ということだ」
「へっ? だってお中元で結構貰ったから」
「騰蛇」
「はい」
「先一昨日の晩御飯をあげてみろ」
「えっと、魚とほうれん草のおひたしとそれから、素麺のサラダだったか?」
「そうだ。そして一昨日の昼は?」
「蕎麦だったと思うが」
「そうだ、蕎麦だった。では昨日の昼は?」
「確か朝から掃除でバタバタしてたら昼になって、カップラーメンだった」
「そうだな。では昨日の晩は?」
「親戚の家に行った帰りに、讃岐うどんの店を見つけて晴明が嬉々として寄らせたな」
「分かってるじゃないか。では、今日の昼は?」
「墓参りに行って、その帰りに吉昌がラーメンを食べたいといって、ラーメンだ」
「そして、今日の晩御飯は?」
「肉野菜炒めと素麺。なあ勾、一体どうしたんだ?」
「お前今の会話から想像することはないのか?」
「いや、特に」
「……お前は馬鹿だ」
延々と続けられる会話に、お腹をすかせたこの家一番の食いしん坊が台所にやってきた。
「紅蓮、今日の晩御飯って何? ……もしかして素麺?」
用意してある鍋と封を切ろうと騰蛇が持っていた素麺の袋を見て眉を寄せる。
「そうだが。ってどうした昌浩。何不機嫌そうな……」
「ちょっと素麺ですって!? 騰蛇ここ数日麺類ばっかりじゃないの!!」
サイテー、と会話を聞きつけた太陰が声を張り上げる。
昔は恐がっていたのに、こうして人身の姿をとって生活しているうちに、言いたい放題言うようになった。
眉間に皺を寄せた玄武が口を開いたがまた閉じられる。
騒ぎを聞きつけた天一が顔を覗かせ、困ったように口元に手をあて、案の定後ろからついてきた朱雀がとどめの一言を口にした。
「芸がないな騰蛇」
全員の非難の視線を浴びせられた紅蓮は苦虫を噛み潰したような顔をする。
確かに、三日前から一日一食は麺類が出ている。意図したわけではなく、たまたま偶然そうなったのだが、腹にたまらない麺は味も単調だし育ち盛りの子供には不評だろう。
六合、露木、紅蓮の三人が交代で作る食事は、お互いが作ったものを把握しないと被る。
といっても紅蓮は煮込み料理など、鍋を使った料理しか作れないが。

今回は、まあバタバタしていて、三人が三人とも簡単に作れるものに逃げたかもしれない。
が、なぜそれを同胞に非難されなければならないのか。
同胞たちは人身をとっているとはいえ、本来なら食する必要はないはずである。
それなのに毎回毎回食事のたびにその席に現れる。
太陰や玄武においてはわざわざ異界から降りてきて人身をとるのだ。
ありえない。
四人分の食事が十人ほどの量になるのだ。
ありえない。
六合ならもっと器用につくるし、露木がつくる場合は天一や天后が手伝う。
ありえない。
どうして女が料理をつくらずに、男がつくるのか。
そう思って勾陣を見ると、見透かされたような視線がかえってきた。
――私に料理を作れと?
以前言われた言葉が蘇る。

……理不尽だ

紅蓮はため息を吐いて、冷蔵庫を開いた。




――――――
料理の順番は実話です。  今年のお盆がこうでした。  このあと紅蓮は何を作ろうか悩むんですよ。  冷蔵庫を物色し……確認して、作れそうなのを考えるんです。  煮込み料理しか作れないのに。  あっ、同じ鍋を使うので素麺とか茹でるのもいけるはずですよね。  最悪冷凍食品を温めてそう。  で、帰ってきた青龍に哂われるんだ。  そのまま腹が立って、料理のレパートリーを増やそうとする。  青龍と姐さんが起爆剤。姐さんはもちろん、アレが食べたい、と無理やり作らせるんですよ(にこ





h20/8/28
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