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約束
「孫―!!」
「うわっ!」
どさどさどさ、と効果音がつくならそんな音がふさわしい
目元を前足でそっとぬぐった物の怪は哀れみの目を昌浩に向けた
「仮にも陰陽師が妖に潰されるとは情けない」
「う゛ー。そんなこと言ってないで助けてよ」
顔だけを雑鬼の山からだした昌浩が物の怪にうめく
一匹一匹は軽いのだが、集団になるとやはり重い
今回に限って、いつも助けてくれる六合はいない
逃げようともがくが山からあふれ出た雑鬼たちがおもしろがり、再び上から落ちてくるので抜け出せない
さすがにかわいそうかと思った物の怪が助け出そうかと思案したとき、一陣の風が通り抜けた
雑鬼たちが風に舞い上げられて空に放りあげられる。だが、そのまま地面に叩きつけられることはなく、ふわりと地面に降ろされた
雑鬼がいなくなった昌浩は起き上がり、現れた人物に振り返った
「白虎」
十二神将風将白虎が地面に降り立った。昌浩は駆け寄る
「助かったよ、白虎。ありがとう。でも、なんでここに?」
彼は一度も夜警についてきたことはない
そもそも彼は、というか皆は祖父・晴明の式神だ。昌浩のそばに居るのもみな晴明の命である
「もしかして、じい様が……」
暗に何かまた仕事を押し付けられるんじゃないかと聞いてきた昌浩に白虎は苦笑いして首を振った
「いや、実は六合がな。『おそらく今日も潰されるだろうが、騰蛇のことだまたおもしろがって見ているだけだろうから、暇があったら様子を見てみてやってくれ』と言われてな、こうして見に来たって訳だ」
まさかここまでとは思っていなかったが、と彼は笑った
昌浩は感動した
六合ありがとう。いつも無口で接しづらいなぁなんて思っていてごめん
物の怪は苦虫を噛み潰したような顔をした
「六合め、そんなことを思っていたのか」
「騰蛇が本性に戻ると逆に雑鬼たちがあわれだともいっていたな」
物の怪はさらに渋面な顔つきになった。そんな物の怪に昌浩と白虎は顔を見合わせて笑う
「式神ー!」
飛ばされた雑鬼たちが白虎のまわりに集まってきた
「もう一回やってー」
「もう一回!」
「空なんて初めて飛んだぞ」
などと口々に話す。皆一様に目をきらきらさせている
それもそうだろう。普通の雑鬼は空を飛ぶこととは無縁だ
「ふむ、困ったな」
その白虎の言葉に雑鬼たちは昌浩に助けを求めた
「孫ー。孫からも頼んでくれよ」
「そうだ。頼んでくれよ」
「「「孫ー!!」」」
皆の大合唱に昌浩が切れた
「俺は孫じゃないー!!」
その光景を見ていた白虎が雑鬼たちを呼んだ
「雑鬼たち、あまり昌浩を潰してやらないこと。嫌がることをしないこと。それを守るのなら飛ばせてやってもいいが」
すかさず雑鬼たちは返事をした
「「「「守るー」」」」
昌浩は再び感動した
ありがとう、俺のことを考えてくれるなんて。いつも太陰を怒っているおじさんんなんて思っててごめんよ
(……昌浩さっきといい今といい、だいぶ失礼なこと思ってたんだね)
「これで、平和な夜警が行われる」
きゃっきゃっと楽しんでいる雑鬼たちを尻目に、復活した物の怪が呟いた
「そう、上手くいくのかね」
大体平和な夜警って何だ?
そんな物の怪を無視した昌浩はその平和な夜警に心を馳せていた
――次の日
「孫ー!!」
「うわっ!」
べしゃ、と効果音がつくなら今回はこんな音だろう。またしても潰された昌浩は抗議の声をあげた
「お前ら昨日白虎と潰さないって約束したんじゃないのか!」
それに雑鬼たちは声をそろえる
「あの式神と約束したのは違う雑鬼たちだもん」
「俺たちは昨日居なかった」
「俺はいたけど、毎日潰さないもん」
「俺は今日。猿鬼は明日。明後日はまた違うやつ」
「全員毎日はこないもん」
「「「約束破ってないもん」」」
「雑鬼にしては考えたな」
物の怪は感心している
「そんなぁー。」
「だから言っただろ上手くいくのかねって」
昌浩は脱力し叫ぶ
「俺の平和な夜警をかえせー」
「いや、かえせって元からそんなの無かったとおもうが」
そう呟いた物の怪は昌浩に蹴られた
終
私の作品には今のところなぜか六合が必ず出てきてしまう。なぜ?
たまには違う人たちをと思ったら白虎がでてきました
読んでくださりありがとうございます
過去華開始記念小説ということで、フリーにしていたもの
h19/11/9
馬鹿なことをしました
白虎を百虎と書いていました
訂正をいたします
h20/2/20訂正
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