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それは誰もがあこがれる



皆で京都に来た。秋の京都は本当に混雑していて辟易する。
けれど泊まるところを考えなくていいのは楽だ。
安倍の本邸(といっても晴明がいる東京が本邸なのだが)は広く、護衛の十二神将も楽に泊まれる広さだ。
昌浩は彰子と久しぶりの京都を満喫する。
彰子も昌浩たちについてよく京都にくるが、昌浩ほどではない。だから昌浩はここでこそ!と嬉々として町を案内していた。


「昌浩あんなの出来たの知ってた?」
昌浩の服の袖を引っ張った太陰はある一角を指差した。
中学生という身分では保護者がついてくるのが悩みの種だ。
まあ。電車のお金は出してくれるので、彰子に何かを買ってあげられる額は上がるわけだが。
「新風館? へぇこっちにはあんまりこないからなあ。知らなかったよ」
「ショッピングモールか。行くか?」
昌浩の相槌に紅蓮も答える。
「行ってみましょうよ」
答える暇も無く、太陰は彰子の腕を引っ張っていった。
そうされれば昌浩に拒否権はない。二人を追いかけるために、駆け出す。紅蓮もそれを追った。


「ほう。このあたりで珍しい雰囲気を醸しているな」
勾陣は上から下まで建物を眺めた。
「大正15年に建てられた電話交換オペレーションセンターを改築して出来たものだそうだ」
置いてあったパンフレットを広げて玄武が建物の説明をしてくれる。勾陣は腰を折って一緒にそれを覗き込んだ。
「姉弟かな。可愛い」
「あの人も美人だよね」
彰子たちに追いついたところで勾陣たちをまつ。女子大生か。二人連れの女たちがひそひそと話をしているのが聞こえた。黒髪黒目の二人は確かに姉弟みたいだ。
しかし紅蓮は回りでは男が彼女をちらちらと見ているのが気に喰わない。いくぞ。と短く告げて促した。
「玄武も、何してんのよ!! 行くわよ」
太陰が叫んで手を振る。昌浩と彰子は苦笑してみている。
よく見れば太陰も紅蓮も若干不機嫌で、勾陣と玄武はわずかに顔を見合わせ、足を動かした。



ショッピングモールなので店は様々だ。ファッションは値段が高めで、年代もそれ相応の人に合わせてある。雑貨屋、レストランも完備されており、見ているだけでも楽しそうだ。
昌浩たちはウィンドウショッピングを楽しむ彰子と太陰の歩調にあわせてうろついた。
雑貨屋では彰子が最近凝っているという御香を昌浩が買ってあげたり、という微笑ましい光景が見られた。
一通り中を堪能して、レストランで食事をする。値段も比較的リーズナブルで、味も良かった。六合が来ていたなら家で再現してくれるのだろうが、来ているのが鍋に入れて煮る、という一辺倒な男だったのであきらめた。
外に出ると七時半を回っている。これ以上遅くなると成長期の少年には酷だ。
およそ千年前、希代の大陰陽師と呼ばれた青年の後継者は、成長期なのに夜にゆっくり休むことも無く、都を駆け回っていたため、なかなか身長が伸びなかった。彼がそれを気に病んでいたので十二神将たちは子供は夜中に休ませなければならない、という暗黙の了解を自らに課していた。
夜の風が辺りに吹いた。回りはもう真っ暗で、しかし町の明かりで晴れているはずなのに星は見えない。
「帰るか」
勾陣が促し、皆が頷く。
入り口に面した中庭では外国人がクラシックを演奏していた。

「あっ」
彰子が唐突に声を上げた。後ろを振り向いて、目を輝かせている。
「わぁ、結婚式じゃない!!」
視線の先を追った太陰が同じく顔を輝かせた。
中庭の上部に設置されている巨大なスクリーンに純白の衣装を纏った一組の男女が移っている。
司会らしき人の声が聞こえてきて、これが現在行われている結婚式だということが伺えた。
回りにいるひとたちもそれに気づいて足を止める。
画面の中の花嫁は幸せそうに微笑んでいた。
「綺麗」
彰子が感嘆し、太陰が聞こえないくらいに言葉を零す。
「いいなあ。あたしも着てみたい」
姿が変わらない十二神将で子供の姿をしているのは太陰と玄武の二人だけ。普段は気にならないが、ふと思う。本当は大人っぽい洋服を着てみたい。ドレスを着てみたい。いつも子供は嫌いではないけれど、けして着れることのないそれに胸が締め付けられる。
太陰の頭に手がのせられた。上をみると勾陣が視線を向けている。
「大丈夫よ」
そう笑う。
誰よりも憧れていることをけしてやりたいとねだらない少女。
こういう太陰は強いと思う。
「彰子、帰りましょう。昌浩が待ってるわ」
男三人は入り口で待っている。花嫁は綺麗だが、結婚式に何の思いも湧かない。それよりも隣で想い人がいてくれるほうが何倍もうれしい。
彰子はしっかりと画面の花嫁を目に焼き付けると昌浩のもとへと向かう。
帰り道、そっと握り締められた手を握り返した。
花嫁は綺麗だった。見れてうれしかった。けれど、彰子もこの手のぬくもりのほうが何倍もうれしかった。



「彰子はいつか昌浩の隣できるんだろうか」
「騰蛇、お前は何年後の話をしているんだ」
「お前は着たくないのか?」
「私に似合うと思うか?」
「似合うと思うぞ」
照れもなくすぐさま答えるこの男の天然さに、筆架叉で切り刻みたくなる衝動を必死で抑えた。





――――――
ってことで書いてみた。
いかがでしょうか?私自身新風館には行ったことが無いので、郷佑のレポートとHPをもとに何とか書いてみました。
天后、青龍、天一、朱雀とかも絡めたかったんですが、さすがに行く理由が見当たらない。
私は紅蓮が好きですが、太陰もかなり好きです。
彼女って姿の所為で現代版ではいろいろつらいんだろうなあ、と思います。
勾陣は興味なさそう。ただ紅蓮が素面で恥ずかしいことを平気でいうのに辟易しつつ、まんざらでもなければいい。
ってことでこの辺で





h20/10/10
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