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彼女と物の怪


丸まって眠る物の怪一匹
――神将って眠るんだろうか?
そんなことを考えながら昌浩は書物をめくった
くーかーくーかーくー!!
寝息が止まった
「どうしたの、もっくん」
目覚めた物の怪があたりを見渡した
「いや、なんでもない」
――気のせいか
物の怪は再び眠りについた





――あっ、危なかった…
「太陰、こんなところでどうしたのだ」
玄武が簀から不審そうに太陰をみている
それもそうだろう。太陰がいるところは、晴明の部屋と庭の草木の間、と言うより草木に埋もれているのだから
「なななな、なんでもないわよ!! 行くわよ玄武」
太陰が異界へ戻ったので首を傾げながら彼も太陰を追いかけた




「やれやれ、もっと素直になればいいのに。なあ、騰蛇」
屋根の上から太陰が見ていたものをみる
書物を読む昌浩と寝ている物の怪がいた
「助けてやるか」
くすくすと笑って勾陣は異界へと消えた




数日後―
「もっくん、最近どうかしたのさ?」
昌浩が心配そうに尋ねる
「いや、最近妙に視線を感じるんだが」
「視線?」
昌浩が首を傾げる
「六合はどうだ?」
隠形している同胞にも尋ねる
「…何も感じないが」
「青龍がまた睨んでるんじゃない」
「いや、そういう視線じゃないんだ」
――もっとこう、
「知りたいか?騰蛇」
すっ、と勾陣が顕現してきた
「勾、知っているのか」
物の怪がひょん、と尻尾を振った
その姿に苦笑しながら勾陣は答えた
「まあな、知りたいか」
「そりゃあ、まあ」
――知りたいが
とまた尻尾をひょんと振る
「では、しばらく目隠しをしていてもらおうか」
「へっ!?」
と言う物の怪を無視し、勾陣は六合に視線を向ける
「……」
ひょいっと六合は物の怪を抱え上げた
「昌浩、帯を貸せ」
「うん」
ごそごそと唐櫃から帯をだす。勾陣はその帯で物の怪の目を隠した
「勾どうするつもりだ?」
そう尋ねると
「後で判るさ」と返ってくるだけだった
目隠しされて六合に抱えられている物の怪は、誰かが近づいてくるのを感じた
六合が近づいてきた人物に物の怪を渡した
昌浩だろうか。位置が下がった。無意識に尻尾をひょんと振る
ぎゅっ、と抱きしめられる。暖かい
――そういえば子供は体温が高かったっけ
そんなことを考える。と、また手渡しされ抱きしめられる
そこで、物の怪は眉を寄せた
――昌浩じゃない
また手渡され今度は目隠しを外された
笑った勾陣が目の前にいた
辺りを見回すと、昌浩が驚いたような顔をしていた。六合は目が笑っていた
「一体何なんだ!?」
「分からなかったのか?まぁ、神気を消していたからな」
神気を消していて、昌浩でない子供…
「まさか…」
物の怪はしばらく唖然としていた
くすりと笑うと、勾陣は異界へと戻った



――どうしたんだ
尋ねると少し渋った後
――あの物の怪が可愛いの
そう太陰が言った
――騰蛇で、怖いんだけど、尻尾がひょんって動いたり、ふわふわして可愛いなって
――そういえば、我もあの毛並みは興味深い
玄武も頷く
――抱かせてやろうか?
勾陣が言うと
――本当!!
と顔を輝かせた。だが、すぐにうつむく
――でも、…
――大丈夫だ。私に任せておけ






―太陰―
呼ばれて、言われたとおり神気を消して顕現した
そこには目隠しをされた物の怪が六合にかかえられていた
現れた太陰と玄武に六合は目を瞬かせたが、勾陣が頷くと理解したように物の怪を手渡してくれた
物の怪が尻尾を振る
――かっ可愛い!!
声に出しそうになりあわてておさえる。ぎゅっと抱きしめて玄武に渡した
玄武もぎゅっとして勾陣に手渡した
そして二人は慌てて異界へと戻った




「どうだった?」
勾陣に聞かれて太陰は笑った
「怖かったけど、可愛かった」
「うむ」
「そうか」
六合もやってきた
「騰蛇が唖然としていた」
思い出してか、六合は目で笑った
ぽんっ、と玄武の頭に六合の手が置かれた
騰蛇が昌浩によくやるように
太陰の頭の上には勾陣の手が
「「よく頑張ったな」」
二人は笑った
「今度は騰蛇と普通にいられるように頑張る」
「我も同感だ」
勾陣と六合は顔を見合わせた
―生きていれば、変わるのだよ―
主の声が聞こえた気がした
「「頑張れ」」




受験が終わった友人にあてた小説です
「頑張ったね」「お疲れ様」という意味を込めています
「彼女と物の怪」というオフ本の原案として使用。






h19/11/6
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