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――戻ってきた
そのどっしりとした門を見て、懐かしさが込み上げる。
手をあて門は硬く、重く。けれども日の光りがあたってか、彼を冷たく拒絶はしなかった。

〈再出発〉

久々に訪れた庵は、形こそそのままだったが、記憶にあるよりも古びて、小さく見えた。
それもそうだろう。彼が最後に此処を出たのは10年以上も前だったのだから。
「久しぶりじゃな」
ぼんやりと外を見ていたら、ふいに声をかけられた。
いつ現れたのか、学園長が目の前で湯飲みを傾けていた。
「お久しぶりです。学園長先生」
驚くこともなく、彼は学園長に頭を下げる。その、昔とは違う場をわきまえた姿に学園長は目を細めた。
やんちゃをしていた姿はそこにはない。
彼も成長したのだ。
その姿に嬉しさと寂しさを覚えた。
「他のものは元気か?」
「さぁ。全然会ってないので分かりません」
「会ってない? 今まで何をして暮らしていた?」
「全国を転々と。特に目的もなくさまよってました」
どうしても、仕事に就くことができなくて、と彼は自嘲するように笑う。
「そうか」
学園長は湯飲みを置いた。
「変わったじゃろう?」
学園長の問いに、彼は目を細める。
「ええ、だいぶ」
門から入ったときに出会った職員も、ここに来るまでの道のりも、ここから見える景色も、部屋の家具の配置も。
全て彼が知っている姿ではなかった。
彼が慕った人も、ともに学んだ学友も、すでにここにはない。
それを分かっていても此処に来ようと決意した。
自分が出来ることはなんだろう。自分が貰ったものをどうしたら返すことができるだろう。
国を回っている間、ずっと考えていた。
考えて、考えて、ようやく出た結論がコレだった。
「戻ってくると思っておったよ」
ぽつりと学園長が口にした言葉に彼は目を瞬いた。
「何人もの生徒を見送った。そうして暮らしていくうちに、彼らがどんな路を望むのかも、分かるようになった」
何人もの生徒が此処を出て逝った。
自分の信じた路を歩んだもの、意に反した路を歩んだもの。学友と刃を交えたもの。
此処での甘やかな生活では知りえなかった路をそれぞれ歩んだ。
「お主は誰よりもそれを知っておった。だから、戻ってくると思っておった」
彼は目を閉じた。学園長の言葉とともに、優しい声が反芻する。
"無理をするな。生きることは恥ではないんだ"
その言葉に背を押され、生きてきた。
そしてそれを言ってくれた人に恥じない生き方をしようと思った。
「学園長」
目の前の人を見て、笑う。
移り変わる人と時の流れを見てきたこの小さな老人は、今でもこの忍術学園の大黒柱だ。
けして揺らがないその巨木を、彼は心の底から敬愛する。
「先ほど言いましたよね。ここが変わったって」
ゆっくりと立ち上がり、足音を立てぬように襖に近づいた。
おやっ、と学園長は方目を眇める。
にっこりと昔のような悪戯っ子の顔をして、彼は勢いよく引き戸を引く。
“うわーっ!!”
突然開いた襖に聞き耳を立てていた子どもたちが転がり出てきた。
「くくくっ……変わりませんよ、学園長」
面白そうに笑ったきり丸に、学園長はそうじゃな、と豪快に笑った。



――――――
妹に小説を書け、と命じたお礼。
にんたまのきり丸数年後ver。昔から彼は好きです。
h21/10/2