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それを知った日



「ねぇ天一、チョコレート買いに行かない?」

ある日の昼下がり、昼食の片付けもすんで一息ついたとき、太陰が天一のすそを引っ張った

「チョコレートなら昨日白虎が頂いたのがあるけれど」

「違うわよ、もうすぐ14日じゃない。天一はあげないの?」

首を傾げた太陰に天一も首を傾げた

「天一と朱雀は一年中バレンタインだがな」

そう言って笑ったのは勾陣で天后も同意だと頷いた

「……バレンタインって何ですか?」

首を傾げたまま天一は三人に問う

問われた三人は意外そうな顔をする

「え〜!! 天一バレンタイン知らないの?」

「ほぅ、これは意外だったな」

「こっちに居ててもずっと朱雀と一緒だったから情報が入ってないのかも知れないですね」

上から素っ頓狂な声を出す太陰に、面白そうな顔をした勾陣、冷静に分析する天后

三種三様な返答に天一は大きな目を瞬かせた

「良〜い? バレンタインってのはね、女が好きな男にチョコレートを渡す日なのよ」

太陰が指を立てて天一に諭すように説明をする

「本来はもっと神聖な意味があって、チョコを渡すのは日本の製菓食品の陰謀だがな」

「西洋では男性が女性にプレゼントをする日ですね」

後ろで勾陣が嘆息し天后がそれに付け加えた

「ここは日本なんだから、日本式でいいじゃない。ちなみに三月にはホワイトデーっていうのがあってね」

「ホワイトデーも日本特有だな」

「そうねぇ。お返しっていうのがどうなのかしら」

「何よ、さっきから!! そんなこというなら二人が説明すれば良いじゃない」

くるりと向き直ると太陰が吼える

吼えられた二人は太陰をなだめるように返す

「別にそんなつもりで言ったのじゃないのよ」

「太陰の説明に付け加えただけさ」

太陰は不満そうだが、二人には勝てないと知っているため、しぶしぶ天一に向き直る

「つまり、2月14日がバレンタインで日本では女性が男性にチョコレートを送る日なんですね」

天一が理解したように言うと、ようやく納得したのか太陰が頷く

「で、太陰は誰に渡すために買いに行きたいんだ?」

勾陣が太陰に聞くと、太陰は特に気にした様子もなく答える

「白虎」

その答えに天后は眉を寄せたが、続く言葉にそっと胸を撫で下ろした

「に、太裳に翁は食べないだろうけど、一応買って、あと晴明かな」

「確かに、義理チョコというものもあるからな」

「作るのも楽しそうだけど、最初はどんなのがあるのか見てみようと思って」

買いに行くでしょう?、と太陰が天一に尋ねると彼女も笑顔で頷く

「楽しそうね。行きましょうか」



玄関から出ようとすると、ちょうど朱雀が任務から帰ってきた

「天貴、出掛けるのか? なら一緒に行こう」

「駄目よ!! 今回は男は要らないの」

ついてこようとする朱雀に太陰が止める

訝しげな顔をした朱雀が天一をみると、彼女もうなずいた

「今回は太陰といくわ。大丈夫、昔に比べたら危ないことなんてないわ」

愛しい恋人に言われて、朱雀は不満そうだが頷く

「分かった。なにかあったときはすぐに俺を呼べ。必ず駆けつける」

「ええ、約束ね」

「早く行きましょう!!」

放っておくと二人の世界に入り込んでしまうため、太陰は慌てて天一の腕を引いて外にでた

「朱雀、行ってくるわね」

「必ず俺を呼ぶんだぞ!!」

二人の姿が見えなくなると、朱雀は玄関を出る

「後をつけるなんて最低な奴がすることだと知っているか?」

後ろから言われて朱雀はぴたりと固まった

「べっ、別に俺は後をつけようなんて……」

「ではどこに行こうとしたんですか?」

「家の周りを散歩しようかと……、ああ、天貴の代わりに洗濯物でも畳むとするか」

勾陣と天后に詰め寄られて、朱雀は分が悪いと感じたのか、そそくさと家へと入っていった

「一途なのは良いことだが、一歩間違えると犯罪だな」

「天一にも注意しないといけませんね」

玄関にたったまま二人は会話を続ける

「ところで、さっきの太陰のあげる相手だが」

「玄武が入ってませんでしたね」

「六合には風音がいるしな」

「勾陣は騰蛇に準備するんですか?」

「いや、そんな面倒なことはしない」

「まあ騰蛇なら自分からやってくれそうだけれど」

「お前はどうなんだ? 青龍に準備してるんだろう?」

「まさか。私が青龍にする必要がありますか?」

「部屋に隠してある包装された箱は何なんだろうな」

からかうようにいうと天后は真っ赤になった

「なんで、知ってるんですか!!」

「やっぱりお前だったか」

そこで天后ははめられたのだと知る

「勾陣!!」

怒る天后とは裏腹に、めずらしく勾陣は声をあげて笑った







――――――
2000切番友人イマワノ氏様に捧げます
どこがラブラブ朱一じゃい!!
しかも今更バレンタインかよ!!
仕方ないじゃん、リクもらったとき思いついたんだから
てかこの二人では無理があった
太陰をメインにするほどに
他なら面白かったのに
青龍は他の人からもらって天后が嫉妬するとか
姐さんは絶対にあげなくて、逆に紅蓮があげる(紅勾なら王道でしょう)
ちなみにリクは現代でしたけど、平成じゃないです
バレンタインが始まった頃をイメージしてます
上の表現で切りたかったので、下におまけっぽい続き
彼女がメインなのは許して






「天貴、これは?」

「バレンタインっていって女性が男性にチョコレートをあげる日なんですって」

愛しの天一から小さな箱を受け取り朱雀は上機嫌だった

家事がある天一と別れ居間にいくと晴明が鎮座していた

目の前には朱雀と同じような箱がおいてある

「晴明、それは?」

「若菜に貰ったんだ。いいだろう、やらんぞ」

「誰がもらうか。俺も天貴からもらったからな」

自慢そうに箱をみせた

それを通りかかった勾陣が親友と天一に尋ねた

「……天一」

「なんですか?」

「太陰はいくつチョコレートを買った?」

「確か四つだと思うのですが」

「天后、太陰は誰にあげると言っていた?」

「白虎と、太裳と翁と、晴明様……」

そこで二人は顔を見合わせる

「晴明には若菜がいる。それを太陰が忘れるはずがない」

「そういうことに関しては気が利く子だものね」

天后も同意する

そういえば、と天一が思い出したように声をあげた

「太陰の買ったのは同じような包装ですが、中身が少しづつ違うはずです」

細く長い指を頬にあてて思い出す

「同じだとつまらないと言っていましたが、包装は色違いにしてほしいとも言っていました」

それはつまり、そういうこと

「まだまだ幼いと思っていましたが」

「でも、太陰らしくて。考えましたね」

「だが、やっぱり幼いよ」

三者三様の答えだが、三人の顔には微笑みが浮かんでいた





h20/3/8
本命チョコを買っていたということ
2000hitありがとうございます
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