戻る
そばにいて、見届けろと言った
そばにいて、見届けると誓った
いつも傍らに
昨日はいつもより遅かった
しかも行きとだけででは留まらず、帰りにも雑鬼たちに潰されて、本当に祓おうかと考えた
だから家に帰るとすぐに褥に潜り込んで、彰子が起こしに来るまで夢の中のはずだった
「体が…おも……」
体が重くて目が覚めた育ち盛りの少年が、自身の腹部のあたりで寝苦しさをあたえたものに対して罰を与えても、咎められることはないではないかと思い、尻尾を掴んでぽいっと放った
「いて!! 何するんだ人が折角気持ちよく寝ていたってのに」
ぼて、と音をたてて壁にぶつかった物の怪はうめき声と共に抗議する
その言葉にいらっとしても非はないと自分を納得して怒鳴り返す
「何が『人が折角気持ちよく寝てたのに』だ。大体もっくんは人じゃないだろ!!」
その台詞に物の怪は何故か感心した
「確かにそうだな。人がじゃなくて『神将が寝てたのに』か」
「何言ってんだよ。『物の怪が』の間違いだろ」
腕を組んでぼそりと呟いたのだが、さすがは耳の長い物の怪、聞こえていたらしい
「誰が物の怪だ!! お前は本当にいつもいつも学習しないやつだな、俺は物の怪違う!!」
「学習しないのはどっちのことだよ。いつもいつも疲れてるときに限って人の眠りを邪魔して、大人げないと思わないわけ!?」
「人がじゃなくて、半人前がだろ? 晴明の孫!!」
がおうと吼えるように反論する物の怪に俺は何かがぶちんと切れた音を聞いた
「もっくんなんて大っ嫌いだぁー」
平穏ないつもと変わらない朝、俺の叫び声が響いた
怒っていても腹は減るのは育ち盛りで仕方がないと俺は思う
いつもより少し早いけど、朝餉にしようと思って部屋を出た
「おはよう六合」
さっきの叫び声を聞きつけたからか六合と部屋の前で出くわす
にっこりと笑って挨拶
六合はちらりと部屋を見て一瞬眉を寄せたが、何も言わずに移動する俺についてきた
「おはよう昌浩。何かあったの?」
ああ、さっきの声彰子にも聞こえちゃったんだ、心配そうな顔させちゃったな
そう思ったから六合にしたように、にっこり笑って彰子を安心させようとした
「おはよう彰子。ああ、なんでもないよ」
「そう、ならいいんだけれど」
そう言った彼女の顔は少し納得していないようだったが、今は何も語りたくはなかった
上手く説明できないけど、怒りとか心配させてしまったことに対して感情がごちゃごちゃしていたんだ
「それじゃあ彰子、行ってくる」
そう言って門のところで彰子に告げる
「行ってらっしゃい。気をつけてね」
いつものように会話を交わす
そしていつものように言葉が出そうになった
「行こうか、……六合」
その言葉を飲み込んで、違う言葉を吐き出す
六合は怪訝そうに眉を寄せたが、黙ってついてきてくれる
だけど、彰子が悲しそうにしたのが印象に残った
「昌浩殿、暦をおえたらすまないが、これを片付けておいて欲しい」
聞きなれた声に顔を上げたら敏次殿がいた
「分かりました」
そう答えただけなのに、敏次殿は怪訝そうな顔をする
「どうかしましたか?」
そう聞くと、彼は首を傾げた
「誰かと喧嘩でもしたのかい」
その言葉にどきりとする
「な……なんででしょうか?」
「いや、いつもより元気がなさそうだ、それにここ」
そう言って眉間をとん、とつかれた
「皺がよっているぞ。回りの雰囲気が悪くなる、誰と喧嘩したかは知らないが、早く仲直りしたまえ」
そういうと彼はくるりと背を向けて去っていく
相変わらずするどいなぁ、と思い眉間の皺を自分の指で揉む
青龍みたいに取れなくなったらどうしよう、と思ったのは秘密だ
「ふぅ、疲れた」
その時視界に白いものが見えてはっとした
だけど、それは白紙の紙が風に舞っただけで、おかしなことは何もない
――疲れたのか〜? 肩でも揉んでやろうか?
子供のような甲高い声が鼓膜を叩く
それが幻聴だと知っていても胸の心拍数が上がる
と同時に嫌な記憶を呼び起こした
「……片付けよう」
そう言って敏次殿が置いていった書物を持ち上げた
『大丈夫か?』
そう六合が聞いてくれて俺はへらりと笑った
「大丈夫」
六合は眉間の皺を深くした
聞いている意味が違うことは分かっている。でも今は、
「大丈夫だから」
そういって六合に背を向けた
放っておいて欲しい、という思いが伝わったのか六合はそれ以上何も言わなかった
「……でさ、その時に敏次殿が、って聞いてる六合?」
書庫で書物を整理しながら話す
というより相槌はないから一方的に話しかけているだけ
俺に話を振られた六合が見えるくらいまで顕現してくれた
しかし眉間には皺が寄っている
言いたいことがあるけど、俺は聞きたくないからあえて言おうとしない六合の優しさに甘えて、わざと話を逸らす
「どうしたの六合? 青龍みたいに眉間の皺がとれなくなるよ」
そういうとさらに皺が深くなった
嫌そうな顔に何を考えてるのか想像できて楽しい
「……騰蛇と何があった?」
嫌味をいった仕返しだろうか
単刀直入に聞かれる
「……えっと、それは」
しどろもどろになった
そんな俺をみて彼は逃げ道をくれる
「言いたくないのなら、言わなくてもいいが……」
そんなことはないんだけど
もう一度くれた優しさに甘えた
「うん。ごめんね六合」
みんなに迷惑をかけてまで喧嘩をしたくはない
そもそもくだらないないようだったのだ
情けなくてうつむくと六合が俺の頭をわしわしとなでまわした
「あまり、ぞんざいに扱ってやるな」
今、俺は怒ってなんかない
ただ、馬鹿なことをしたなぁと自分でも思う
分かってる
だから顔を上げて笑う
「ごめ……、じゃない。ありがとう」
謝罪ではなく感謝を伝える
分かっている
いないというだけで、姿をみないというだけで、こんなに胸が苦しくなる
好きだとか、そういう感情じゃなくて
そう、もう空気のような存在
出会って数年のはずなのに、もう何十年も一緒にいるようなそんな錯覚に陥る
それを自覚したのはつい最近のはずなのに
どこにもいかないという根拠がどこにあるのか
「……もっくん」
泣きそうな声で呟いた
いつも当たり前のように返ってくる返事はない
いつも傍らにいる白い物の怪がいないだけでこんなに情けなくなるなんて……
帰ってちゃんと謝ろう
続
――――――
えっとごめんなさい。続きます
切番1600獲得、友人イマワノ様への小説です
なんだか長くなってしまって、切りました。しかも文章が変
一回イチニンショウって何? それっておいしいの? ってなりました
いつも三人称だからなぁ
来週には後半をアップします
また後で一本にするかもです
今なら直せますよ
それにしてもやっぱりネガティブ思考だ(泣)
h20/2/7
戻る
人
日
展
現
連
鎖
中
表