「まったく、何でこんなに人が多いんだ。紅葉などどこでも見られるだろうに」
ぶつぶつと呟きながら勾陣は満員電車に揺られていた
「仕方がないだろう。秋の京都は他よりも綺麗だからな」
普段は一両電車なのにこの時期は二両になる嵐電
いわずと知れた京都観光名所嵐山への道のりである
勾陣の肩の上では物の怪が苦笑している
その言葉に勾陣は眉を寄せて返す
「それはそうだが、年がら年中観光客がいるのもうっとうしい」
「それは俺も思うな。……ところで勾よ、人ごみが嫌いなくせになんでこんなところへ来たんだ?」
「それは……」
『終点、嵐山〜嵐山〜』
車内アナウンスとともに扉が開き中の人が外へあふれ出す
人が動き出したので勾陣は物の怪との会話を中断し、人の波が収まるのを待ってから降りた
勾陣が脱いでいたコートを羽織ろうとすると物の怪が肩から飛び降りる
そのまま改札を抜けると物の怪は瞬きひとつで勾陣よりも背の高い青年へと変化した
「さすがに人型だと寒いな」
その言葉に今度は勾陣が苦笑した
「まったくだ」
「で、さっきの続きだが、嵐山になにをしに来たんだ?」
尋ねた紅蓮に勾陣は人ごみの中を縫うように歩き出した
「こっちだ」
勾陣は駅を出ると、人の流れを横切って細い路地へと入っていく
紅蓮もその後を追う
周りはカップルや家族連れだらけ
それを尻目に紅蓮は勾陣とつかず離れずの距離を保っていた
「ここだ」
勾陣が立ち止まったのは小さな
「美術館?」
そうだと勾陣は頷く
「本当は天后と来るはずだったんだが、青龍と出かけてしまってな、仕方がないからお前にした」
悪びれもなく言う勾陣に紅蓮はため息をついた
「俺は仕方がないから連れてくる存在かい」
「そんなことを言ってないだろう。騰蛇、お前被害妄想が激しいんじゃないか?」
心外だとでもいう顔で勾陣はかえす
「そこまで言わんでもいいだろうが」
紅蓮は眉間に皺をよせる
そんな彼に分からぬよう小さく笑うと勾陣は紅蓮をせかした
「ほら、突っ立ってないで中に入るぞ」
「う〜ん、多い」
帰りの電車を待っている間、物の怪はうんざりした声で呟く
人は多い。それは分かっている。それは仕方がない
多いのは
「ねぇ、彼女一人?」
「観光? 良かったら俺たちが案内してあげようか」
ナンパだ
しかも勾陣にばかり声をかける
勾陣は気にした様子もなくあしらっているが、奴等は後から後からわいて出る
「ええい、鬱陶しい!!」
業をを煮やした物の怪が叫ぶ
「ねぇ、聞いてる?」
男たちが答えない勾陣の腕を取ったとき、その腕を誰かが押さえた
「俺の連れに何か用か?」
低い声で、鋭い視線をくれてやると男たちは引きつった笑いを浮かべて離れていく
「たく、勾よ、お前ももう少し断れ」
少し怒っていうと勾陣は気にした様子もなく返す
「あんなのを構うだけ労力の無駄だ」
「だからって……」
「ああ、ほら電車が来たぞ、早く物の怪に戻れ」
電車がホームに入り込んできたのをみて勾陣言う
「……チッ」
舌打ちした紅蓮は勾陣の言葉を無視して彼女の腕をとりそのまま電車に乗り込んだ
「おい、騰蛇!」
それに講義したのは勾陣
「ただでさえ人が多いのにお前が乗ると二人ほど乗れなくなるだろうが。それにお前がいるだけで狭く見える」
昌浩の『もっくん、夏は暑苦しい』に匹敵するせりふである
落ち込みそうになる自分を励まし彼は勾陣を電車の壁際もたれさせて自分はその前に立った
「二人ぐらいどうってことないだろう」
「だからってお前なぁ」
「俺が、こうしたいんだ」
その言葉に勾陣は目を瞬かせた
確かに彼が居るおかげで、勾陣はあまり周りに押されずにすんでいる
おそらく彼も周りも大変だろう。行きは勾陣自身が人に押されて大変だったのだから
だがそれを顔には出さず紅蓮は自分の位置を保っている
そしてなにより満員電車とはいえ、絶対にくっつくようなことをしない
勾陣との距離は数センチ
それが紅蓮の心遣いである
ただし、それは主に勾陣に向けられていることも事実なのであるが
そして呟く
「過保護」
「言ってろ」
そっぽを向く紅蓮の耳が赤い
それを見て勾陣は笑った
「ありがとう」
そう彼に聞こえないように呟いて
『春夏秋冬』天坂陣様への作品
『紅勾でほのぼの』……になってるでしょうか?
これは私がこの間相方の学祭に行ったところからヒントを得ています
実際私が行ったときは三連休の初日で9万人の人が嵐山に来たそうです
その時の学祭で嵯峨野流華道いけばな展(だったけ)がやってたんですよ
そこに藁が敷き詰めてあったのと蓮って花が枯れるとレンコンみたいなの残るじゃないですか、それがあったんですよ
もちろん美術館なんてものあるのか知りませんし、嵐流いけばななんてものも想像です
本当は勾陣がいけばなをやってる設定にしようと思ったんですけど、さすがに想像つかなくて(笑)
あと、マジで人が多かったんで紅蓮が勾陣を電車で庇うようにしたかった(そうみえてます?)
よくカップルがしてるあれです。それを紅勾でしたかった
なんだか言い訳が長い。
えっと、天坂陣様のみお持ちかえり可です
これでよろしいでしょうか?返品も受け付けますので
h19/11/29
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