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雨降る日
――しとしとしとしと
雨が降っていた。
いきなり降ってきたわけではない。
この季節になればいつも降る雨だ。
一度にたくさん落ちてくるわけではなくて、生暖かい風とともにゆっくりと降ってくる。
「そんなわけがないだろう」
青龍の言葉に天后がじっと見上げてきた。
「何だ」
「何でもありません」
天后自身、自分の性格が融通のきくものだと思ってはいない。
だが、青龍ほどではないことは知っている。
「あら、洗濯物が」
ふいに吹いた風に天后が外を見やり、立ち上がった。
青龍が視線の先を辿れば確かにひらひらと木に引っかかっている白い布切れが見える。
「濡れるぞ」
思わず口に出してから、そういえば彼女は水将だったと青龍は思い出した。
濡れても水気を拭うことは簡単なのだ。
「心配してくれるのは嬉しいけれど……」
振り返った天后は少し儚げな笑みを見せる。
振り返るときに髪に触れた水が、髪と共に踊る。
突き動かされるようにして、青龍は手を伸ばした。
「嬉しいけれど、心配するくらいなら、取ってきて欲しいわ」
これが勾陣ならば、簡単に取って来い、と言えるのだろうけれど。
仲は悪くないと思っている。
他の同胞と比べ、親しいと思っている。
けれど、真意が見えない。
やさしくされるのは、どうしてだろうか。
他の同胞と比べて力がないからだろうか。
「太陰でさえ、力が上なのに」
「あれがどうした?」
しとしとしとと降っていた雨が、ぱらぱらと音を変えた。
思わず顔を上げれば、いつも以上に近い場所に青龍がいた。
「さっさと取れ」
ここまで来てくれたのなら、取ってくれてもいいのに。
そう思ったけれど、天后は何も言わずに頷いた。
「神気で水気を取るより、濡れないようにするほうが早いだろうが」
怒っているような、拗ねているような、そんな声が頭上から聞こえて、天后は微笑んだ。
「青龍」
「なんだ」
ありがとう
雨はしとしとと相変わらずゆっくりと降っていた。
――水であっても触れられるのはなんとなく癪だった
――――――
雨雫の加月様が三周年を迎えられたそうでおめでとうございます。
唐突に押し付けた作品です。
申し訳。
が、この二人だけ書いたの初めてだったりする。
この二人は絶対天后から告白すると思うよ。
補足。7/23
相合傘です。が、あえてその表現はしてません。
ええ、傘の表記を入れ忘れたわけじゃありません。断じて(笑
h22/7/21
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